
米国向けの最上位モデルを紹介するエアウィーヴの高岡本州会長兼社長=3月12日、東京都千代田区
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アスリート御用達の寝具メーカーとして知られるエアウィーヴ(東京)は、3月下旬に米国に路面店を出店し、8年ぶりに米国市場に再進出する。日本人に比べて大きな体格の米国人向けに厚みや感触にこだわった高品質のマットレスに加え、ベッドの上に敷く〝Futon〟を展開しブランド認知を図る。直近の夏季五輪2大会の選手村に寝具を提供した経験に基づき、2028年のロサンゼルス五輪での提供もにらみ1号店をロス市内に開店する。
薄い高反発パッドで「失敗」
同社のマットレスには、樹脂製の極細繊維を絡めて通気性と高い反発力を確保した「エアファイバー」という独自素材が使われているのが最大の特徴だ。優れた体圧の分散性や寝返りの打ちやすさを訴求し、「睡眠の質」の提供という新しい切り口で、07年に寝具市場に参入。アスリートを使った広告戦略も奏功し、機能性マットレスという新たな市場を形成した。

米国に進出したのは15年。ニューヨークに店舗を構え、マットレスの上に敷く薄いパッドを中心に販売したが、思うように売り上げを伸ばせなかった。高岡本州会長兼社長は「当時は日本の商品をそのまま米国に持ち込んで販売したが、厚みがあって沈む感触のマットレスを好む米国人には受け入れられなかった」と振り返る。商品の輸送過程で半数以上が破損するなど物流網の課題も顕在化。17年に店舗を閉鎖した。
反省踏まえ米国向け新商品も
再挑戦となる今回は、「健康や環境意識の高いユーザーが多い」(高岡氏)というロス市内に、「和モダン」をコンセプトにデザインした広さ約100平方メートルの店舗を構える。前回の反省を踏まえ、米国向けに開発した新商品「夢 YUME COLLECTION」を投入する。
日本人よりも体格の大きい米国人向けに、厚みやサイズの大きいものを用意。素材も米国で好まれている「低反発でやわらかさのあるもの」になるよう調整を加えた。
また、マットレスは、肩・腰・脚の部位ごとにパーツを3つに分割できるようになっており、それぞれのパーツは個々の体形や体格に合った硬さにカスタマイズが可能となる。分割で配送できるため傷みにくい梱包が可能で、リサイクル可能な素材であり環境面でも優れているメリットも訴える。
用意したのは、素材を組み合わられる層が1層構造の「和 NAGOMI」、2層構造の「匠 TAKUMI」、最上級の3層構造の「極 KIWAMI」の3種類。価格は4000ドル(約59万円)~8000ドル(約118万円)。日本にはない高価格帯のシリーズを展開し、「米国で一般化している割引販売はせず、機能価値を訴求する」(高岡氏)。
海外に「Futon文化」根付かせる
米国の店舗では、床やベッドの上に直接敷く日本の布団を、海外用に厚みを持たせてサイズを改良したFutonとして販売する。
欧米の寝具市場はマットレスが席巻しているが、「ベッドの上に敷くパッドのマーケットは絶対ある。そのマーケットをFutonで作っていこうと思っている」と高岡氏。マットレスよりも薄く、機能性に優れたFutonで、寝具分野の新しいカテゴリーを開拓しようと意欲をみせる。
その試金石となるのが、26年2月に行われるミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪だ。同社は寝具カテゴリーのオフィシャルパートナーとして、3カ所の選手村の約4000床にFutonとマットレスを提供する。選手村内には「マットレスフィッティングセンター」を開設し、選手の体形を測る機器を用いて個々の選手に合わせた硬さの組み合わせを提案するサービスも提供。睡眠面で選手をサポートする予定だ。
同社は、21年の東京大会、24年パリ大会の夏季五輪でもオフィシャルパートナーとして寝具を提供するなど、とりわけ五輪に強いこだわりをみせる。トップアスリートが使用した「実績」を積み上げることが、海外マーケットを開拓する上で強みになるとみているからだ。高岡氏は「睡眠の質にこだわる選手が増えることで、これまで光の当たらなかった寝具の社会価値も上がる」と強調。一連の取り組みを海外市場の拡大につなげ、現在の国内売上高(約200億円)の5倍となる1000億円規模の売り上げを、将来的にグローバルで稼ぐことを目指す。
筆者:西村利也(産経新聞)
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