
日米豪比防衛相会談で発言する中谷防衛相=5月31日、シンガポール(共同)
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日本と米国、オーストラリア、フィリピン4カ国の防衛相は5月31日、シンガポールで会談した。共同声明を発表し、中国による東・南シナ海での一方的な現状変更の試みについて深刻な懸念を表明した。4カ国の連携強化のため、防衛相会談の定期開催に向けて調整を進める方針で一致した。
会談には中谷元・防衛相、ヘグセス米国防長官、オーストラリアのマールズ国防相、フィリピンのテオドロ国防相が出席した。中谷氏は会談で「東シナ海や南シナ海に目を向けると中国はこれまで以上に活動を活発化させている」と述べた。日米豪比の防衛相会談は昨年5月以来、3回目。共同声明では、共同での情報収集、警戒監視、偵察(ISR)の計画を追求すると申し合わせた。
また、日米豪3カ国の防衛相会談も行い、日豪が米国から調達する巡航ミサイル「トマホーク」に関し、実射訓練などの協力を進めることで合意した。
日米防衛相会談では、日本での「能動的サイバー防御」導入に向けた関連法成立を受け、サイバー分野の協力強化で一致した。米国が新たに策定する「国家防衛戦略(NDS)」を日本とすり合わせることも確認した。中谷氏は会談後、米側から防衛費増額を求められたかどうか記者団に問われたが、明言を避けた。

一方、中谷氏は31日、アジア安全保障会議(シャングリラ対話)で講演し、「インド太平洋地域でルールに基づく国際秩序を回復していく」と表明した。防衛装備協力などを通じて「日本は東南アジア諸国連合(ASEAN)や地域の最良のパートナーであり続ける」とも訴えた。
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中谷防衛相「かつてない連携」 トランプ氏の関心引き寄せる思惑も
日米豪比4カ国の防衛相会談は、米国第一主義を掲げる第2次トランプ政権との間で、多国間連携を継続する姿勢をアピールするためでもある。中国の国防費が日本の4倍以上に膨らむ中、抑止力を維持するには日米同盟のみならず、共通の脅威を抱える豪比との連携強化が欠かせない。
2月に「海上協同活動」
「日米豪比の連携はかつてないレベルにあり、地域の平和と安定への貢献を深めている」
中谷元・防衛相は日米豪比4カ国の防衛相会談に先立って行ったアジア安全保障会議の講演で、こう強調した。
日米豪比は今年2月、南シナ海で「海上協同活動」を行った。南シナ海では中国が人工島建設などの軍事拠点化を進めており、フィリピンが対峙している。また、豪州近海では中国海軍が実弾演習を行った。両国とも尖閣諸島(沖縄県)で領海侵入や領空侵犯を受ける日本と同様、中国の脅威に直面している。
日米豪比の枠組みはバイデン前米政権で始まった。トランプ大統領は米国が主導権を発揮しにくい多国間連携に後ろ向きとされる。日豪比としては足並みをそろえて米国と向き合い、トランプ氏の関心を引き寄せたい思惑も透ける。
不可欠な韓国の協力
日本はオーストラリア、フィリピンとの2国間の防衛協力も進めている。豪州を米国に次ぐ「準同盟国」と位置付け、「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の整備などで連携する。フィリピンには防空レーダーを供与した。将来的にレーダー情報が自衛隊に共有されるようになれば「中国軍の動きが丸見えになる」(防衛相経験者)。
一方で、今回欠けたのが韓国だ。台湾有事の際は北朝鮮の挑発や暴発を防ぐため韓国の協力が不可欠になる。ただ、新政権発足前の韓国は安全保障会議への大臣級の派遣を見送った。

日米豪比韓5カ国は昨年11月に初めて会談を行っただけに、防衛省幹部は「できれば今回も5カ国で集まりたかった」と漏らす。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領が昨年12月に「非常戒厳」を宣布して以降、日韓の防衛協力は事実上停止している。再始動に向け、中谷氏は6月3日の韓国大統領選投開票後、早期の訪韓を模索している。
筆者:竹之内秀介(産経新聞)
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