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一挙に3倍増、3千億ドル(約46兆4千億円)に跳ね上がることになった。
アゼルバイジャンの首都バクーで開催された国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)で決まった、先進国から途上国に提供する気候変動対策資金の額である。
先進国は2035年までに年額3千億ドルの拠出達成を約束させられたのだ。地球温暖化は先進国が排出した二酸化炭素などの温室効果ガス(GHG)が原因とするのが、途上国の言い分だ。今年は対策資金額の更新年であったのに加え、近年の気象災害の多発が途上国の被害者意識を増大させ、資金要求の大合唱になったのだろう。
だが現行の資金提供の枠組みには看過できない矛盾が根を張っている。経済大国に成長した中国は世界1位のGHG排出国であるにもかかわらず、国連気候変動枠組み条約では「途上国」の位置づけなのだ。排出量3位のインドも同様だ。
両国は資金拠出側に加わるべきだが、COP29の成果文書には「途上国の自発的な貢献を奨励する」との無力で遺憾な表現が加えられたのみだった。
しかも、来年1月には米国でトランプ政権が発足する。トランプ氏は脱炭素に否定的で、パリ協定からの米国の再離脱が懸念される状況だ。米国の去就が今後のCOPの機能に重大な影響を及ぼすのは間違いない。米国が退場すれば、温暖化対策を通じての中国の途上国支配が予見される。トランプ氏には、この点に留意してもらいたい。
GHGの適切な排出削減で気温上昇と自然災害の抑制を目指すCOPの機能が、不全状態に向かっている。元来、地球温暖化問題の背景には、先進国と途上国の経済格差による南北問題が存在していたのだが、気温抑制に効果がみられないまま、支援資金のみが肥大した結果が現状であるとすれば残念だ。
閉塞(へいそく)状況の打開には、気温上昇と自然変動の関係にも焦点を当てた科学研究の復活をはじめ、中印など新興国の「脱途上国」を軸とするCOPの制度改革が急務であろう。
各国は来年2月までに35年までのGHG削減目標を国連に提出しなければならないが、石破茂政権には冷静な対応を求めたい。目標値の積み上げには原発の再稼働が鍵を握る。
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2024年11月26日付産経新聞【主張】を転載しています
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