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ブラジルのリオデジャネイロで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議が閉幕した。
首脳間の関心事は自国第一主義で保護主義色を強めようとするトランプ次期米政権への対応だったが、首脳宣言に「保護主義」という言葉を明記して懸念を表明することはなかった。
昨年の首脳宣言や、米大統領選前の今年10月にあったG20財務相・中央銀行総裁会議の共同声明で「保護主義に抵抗」などとうたったことと比べれば明らかな後退だ。トランプ氏への刺激を避けた印象は拭えない。
トランプ氏が掲げる関税引き上げは、中国のみならず日欧を含むあらゆる国からの輸入品が対象だ。就任前からG20の腰が引けていては、トランプ氏に今後、独善的措置を取らないよう迫れるとは思えない。G20の存在意義はさらに低下しよう。
中国の動きにも特段の注意がいる。G20が保護主義への直接的な批判を避けた結果、反保護主義で攻勢をかけた中国の存在感が際立った。習近平国家主席はG20の演説で「単独主義や保護主義に反対すべきだ」と訴えた。G20に先立つペルーでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議や2国間会談でも同様の主張を繰り返した。
G20やAPECには、中国が参加を目指す環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の加盟国も多く、そこに働きかける意図もあったのだろう。反保護主義での糾合を促す習氏には、各国と米国の分断を図り、自国に取り込む狙いが透けてみえる。
だが、習氏には自国こそが自由貿易の旗手だといわんばかりに振る舞う資格はあるまい。中国は、国有企業の優遇や不透明な産業補助金、政治的思惑に基づく他国への経済的威圧などで自由貿易体制を歪(ゆが)めてきた。そこに目をつむったまま習氏に同調するわけにはいかない。
本来ならば、米国の関税措置で世界の貿易が停滞することがないよう国際社会を牽引(けんいん)する役割は日本が担うべきだ。安倍晋三政権時にはトランプ政権が離脱したTPPを立て直し、「自由で開かれたインド太平洋」構想に米国を巻き込んだ。そうした戦略性が求められる。
石破茂首相の南米外遊でその片鱗(へんりん)もみられなかったのが残念だ。会議での振る舞いや集合写真に間に合わない失態ばかりが目立つのでは話にならない。
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2024年11月21日付産経新聞【主張】を転載しています
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