東京電力が今春にも福島第1原発事故で溶け落ちた燃料(デブリ)の試験採取に再び着手する。高線量下で行う廃炉作業は困難を極めるが、「廃炉の本丸」へと一歩前進した意味は小さくない。
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東京電力福島第1原発。5号機原子炉圧力容器真下。制御棒を動かす装置が垂れ下がり、狭い空間となっている=2月3日午後、福島第1原発構内(安元雄太撮影)

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東京電力は今春にも福島第1原発事故で溶け落ちた燃料(デブリ)の試験採取に再び着手する。昨年11月、事故後初めて回収に成功したデブリの量は0・7グラムで、推計880トンとされる総量の12億分の1に過ぎない。3月11日で事故から14年。高線量下で行う廃炉作業は困難を極めるが、「廃炉の本丸」へと一歩前進した意味は小さくない。

防護服に身を包んで腰を落としながらゆっくり前へ進む。頭上には、制御棒を動かす装置が垂れ下がっている。原子炉圧力容器の真下は、複雑な構造物がひしめく「狭小空間」そのものだった。

2月、福島第1原発5号機内部の取材が許可され、昨年に続き記者が入った。

事故後初のデブリ採取

5号機と寸法が同じ2号機では事故後初のデブリ採取に成功した。計画より3年遅れとなったが、安全に配慮しながらデブリ回収が可能なことを内外に示した。初歩的なミスが重なり、最初の取り出しは曲折を経たが、メルトダウン(炉心溶融)した事故炉内部まで手が届いた意義は大きいだろう。

空撮資料 廃炉に向けた工事が進む福島第1原子力発電所の1号機=2月27日、福島県(本社チャーター機から、桐原正道撮影)

燃料デブリは1~3号機に存在する。人が近づけば死に至る強い放射線を出すため、格納容器内に閉じ込めたままになっている。回収はロボットによる遠隔操作に頼らざるを得ない。だが、この狭い空間で釣りざお型の装置を使って、一片とはいえデブリを採取できたのは、奇跡的だったと言えなくはない。

ただ、国と東電が目指すのはあくまでデブリの全量回収。2051年までの廃炉完了という国の工程表に科学的、技術的な裏付けはないに等しい。デブリが炉内に存在する限り、建屋の解体はおろか、原発処理水の放出も終わらない。福島の人々が望む「廃炉の最終形」は、残念ながらまだ見えていない。

東電は2号機の回収作業を「試験的」と位置づけ、2030年代初頭に3号機で計画する大規模回収に向けた知見やノウハウの蓄積に役立てたいとしている。国の研究機関の分析では、回収に成功したデブリ片から燃料由来のウランが検出され、炉内に残ったデブリの成分や硬さ、過酷事故に至った経過などの解析が今後さらに進む可能性もある。

ロボットアームで回収計画

今春には2度目の採取に着手する。最初に取り出した地点とは異なる場所での採取を目指す。来年度には釣りざお装置より可動域の大きいロボットアームを使った回収も計画している。それが実現すれば、最難関の工程とされる廃炉完了にもう一歩近づくとの期待が膨らむ。

2号機の隣には事故当時のまま鉄骨がむき出しになった1号機が立つ。将来のデブリ回収に向けて建屋を覆う大型カバーの設置が急ピッチで進んでいた。陸側を望むと、処理水を貯めた1千基余りのタンク群が見える。「J9エリア」と呼ばれる一角では2月、放出を終えて空になったタンクの解体も始まった。東電の担当者は言う。

「デブリ採取は小さな一歩かもしれないが、廃炉は着実に進んでいる」

筆者:白岩賢太(産経新聞)mbun

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