
種子島宇宙センターから打ち上げられたH2Aロケット50号機=6月29日午前1時33分、鹿児島県南種子町(伊藤壽一郎撮影)
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日本の主力大型ロケット「H2A」最終号機の50号機が、6月29日午前1時33分、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられ、予定通り約16分後、搭載する国の地球環境観測衛星「いぶきGW」を軌道に投入した。打ち上げは成功した。
H2Aは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発した液体燃料ロケットで、2001(平成13)年に運用を開始。今回で50機中49機の打ち上げ成功となり、通算成功率は世界最高水準の98・0%に達した。今回の50号機で引退し、23年に導入した次世代主力ロケット「H3」に国の基幹ロケットの座を引き継ぐ。
失敗から学び、世界最高水準の打ち上げ成功率へ
H2Aは、全長約53メートル、直径約4メートルの2段式大型液体燃料ロケットだ。安全保障を中心とした、国の使命を担う基幹ロケットと位置付けられてきた。
2001年から50機を打ち上げ、小惑星リュウグウから岩石試料を持ち帰った探査機「はやぶさ2」や月面着陸に日本で初めて成功した小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」、国の情報収集衛星など、多様な人工衛星や探査機を宇宙へと送り出した。
開発当初の滑り出しは順調で、5号機まで打ち上げ成功が続いた。だが2003年11月の6号機で初めて失敗した。推進力を補助する固体ロケットブースターを上空で切り離せず、地上からの信号で機体を爆破する指令破壊の措置がとられた。
衝撃を受けた開発チームは、徹底的に原因を究明し、考え得る全ての対策を講じた。ロケットブースターだけでなく、機体全体の設計にも改めてメスを入れ、正月返上で徹夜も辞さず改良に取り組み、05年に7号機の打ち上げを成功させた。以後は失敗ゼロ。最終的に通算打ち上げ成功率は、世界最高水準の98・0%に達した。

また、悪天候などによる遅延を除き、機体のトラブルによる遅延を生じさせず、定刻に打ち上げられた比率を示すオンタイム率でも、通算で82・0%という世界トップの値を記録している。
こうしてH2Aは、世界的にもずば抜けた信頼性で、四半世紀にわたって日本の宇宙開発を支えてきた。真面目な日本の技術者たちが失敗から真剣に学び、労を惜しまず改良に取り組んで、名作と呼ばれる高品質なロケットを作り上げた。
運用終了後も引き継がれる功績
H2Aは初号機から四半世紀で50機に達し、日本のロケット開発史上、これほど長く使われた例はない。
長期運用の理由は、世界最高水準の打ち上げ成功率を誇る信頼性の高さだ。大型ロケットが搭載する衛星や探査機は、1機数十億円から数千億円と非常に高価で、信頼性の低いロケットには打ち上げを任せられない。
それでも運用を終えたのは、世界で宇宙開発が活発化し衛星や探査機の打ち上げ需要が急増する中、国際競争力が低下したためだ。1回の打ち上げ費用は約100億円で、先代のロケット「H2」に比べれば半分だが、現在は海外勢の2倍近い。
四半世紀前の設計では無理もないが、信頼性だけでは宇宙ビジネス市場を勝ち抜けない。そのため、H2Aの信頼性を引き継ぎながら、最新技術で打ち上げ費用を約50億円に下げた後継の主力大型ロケット、「H3」にバトンタッチする。
H2Aは、信頼性と技術力の高さを世界中にアピールし、日本製ロケットの存在感を確立してきた。これは今後、H3が国内外からの打ち上げ受注獲得を目指す上で、非常に有利に働くはずだ。運用を終えても引き継がれる貴重な財産で、その功績は極めて大きい。
筆者:伊藤壽一郎(産経新聞)
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