
優雅な外観の天鏡閣。建物の前に立っただけでタイムスリップしたような気分になる=福島県猪苗代町(芹沢伸生撮影)
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国内4番目の大きさを誇り、透明度の高い湖水でも知られる福島県の観光スポット・猪苗代湖。その絶景を見下ろす猪苗代町の高台に、一歩足を踏み入れた瞬間から明治時代にタイムスリップしたような感覚に浸れるスポットがある。国の重要文化財「天鏡閣」。映画やドラマなどに登場することも多く〝聖地〟としても注目を集めている。
天鏡閣は明治41年に有栖川宮威仁親王の別邸として建てられ、皇太子嘉仁親王(大正天皇)が「天鏡閣」と命名された。昭和27年に福島県に下賜され会議などに使われたが、老朽化で46年に使用中止に。54年の国の重要文化財指定を契機に修復工事を実施した。家具や調度品などの復元もなされ、皇族ゆかりの品々とともに57年から一般公開された。
見学者は年間2万5000人ほど。関東一円や新潟、宮城両県などから多くの人が足を運ぶ。桜や紅葉、雪景色など四季折々の風景は写真家にも人気だ。

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訪れて最初に目にするのが表門。門柱は重厚なレンガ造りで両開きの鉄柵扉が威厳を放つ。少し歩くと、うっそうとした木々に囲まれて建つ洋館が見える。灰色がかった壁はところどころ塗装がはがれ、冬場の風雪の厳しさを物語る。
天鏡閣には本館と別館があり、本館は2階建てで建築面積492平方メートル。ルネサンス様式を基調とした明治洋風建築で、八角形の塔屋や玄関上部のバルコニー、屋根の傾斜面から突き出る半円形のドーマーウインドーなどが特徴だ。
内部では豪華絢爛(けんらん)なシャンデリアやじゅうたんなどに目を奪われる。26基ある暖炉の飾り枠・マントルピースは建築当時のままで、イギリス製のマジョリカタイルが使われている。天鏡閣を皇族が冬場に訪れることはなく、暖炉は未使用に近いため保存状態がいいという。
天鏡閣は「聖地巡礼」スポットとしても人気で、特に有名なのが令和2年公開の映画「約束のネバーランド」。主人公が暮らす孤児院の外観に天鏡閣が使われ、同じアングルを見ようと足を運ぶファンは多い。


館内では明治風ドレスの試着体験もできる。約20着から好みのドレスを選ぶとスタッフが着付けをしてくれる。洋服の上から着られ、着替え時間は5~10分。時間は着用から30分、移動は館内に限られ庭には出られないが、レンタル料1000円で明治の貴婦人の気分が味わえる。

試着した50代の姉妹は「意外とすぐに着られた」と驚いた様子で記念撮影を楽しんだ。新潟市に住む姉は「明治時代の気分にひたれた。ロマンがある」と満足そう。福島県二本松市に住む妹は「挑戦してよかった。年配者も楽しめる」と声を弾ませた。ただ、三脚やレフ板、大がかりな撮影機材、自撮り棒は使用できない。国の重要文化財を守るためのルールだ。
天鏡閣のスタッフ、後藤千穂さんは「細かい装飾や凝った調度品など見どころはたくさん。シャンデリアには天使もいる。そんなところから明治時代に思いをはせてほしい」といい、館長代理の田畠翔さんは「価値ある建物を守り歴史を正しく伝えたい。特に若い人に見てもらえれば…」と話していた。
筆者:芹沢伸生(産経新聞)
■天鏡閣
JR磐越西線の猪苗代駅からバスで約9分、長浜停下車徒歩約10分。車は磐越道・猪苗代磐梯高原IC(インターチェンジ)から、国道49号を会津若松方面へ。約8キロ。開館時間は5~10月が午前8時半~午後5時(最終入場午後4時半)、11~4月が午前9時~午後4時半(同午後4時)。
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