
小淵沢駅に到着した「HIGH RAIL1375」=3月5日午後、山梨県北杜市(相川直輝撮影)
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「タタン、タタン…」。小気味よく響く走行音。窓からは一面の銀世界が飛び込んできた。2両編成の気動車に揺られていると、都会の騒がしさを忘れさせる空間が広がっていた。
八ケ岳の麓の絶景を堪能
JR佐久平駅(長野県佐久市)のホームに2両編成の青い気動車が滑り込んできた。ディーゼル車特有の「ドドドド…」という大きな音を響かせて、小海線の南側の終点、小淵沢駅(山梨県北杜市)までの1日目の旅が始まった。

乗り込んだ列車は小海線の「HIGH RAIL 1375」。2017年に観光用に改造され、現在は土休日を中心に1日3本が運行されている。車内は銀色と青色の内張りで、まるで宇宙船のような雰囲気だが、床やテーブルは木目調。どこか落ち着く感じがする。

筆者が乗車した1号車のソロシートは風景を楽しめるように座席が外側に向いていた。他にも、ペアシートやボックスシートと旅行者のスタイルに合わせ、車窓に広がる八ケ岳の麓の絶景を堪能できる。2号車には八ケ岳の星空をイメージしたギャラリーが設けられ、図書館にいるような落ち着いた雰囲気を味わえた。

車窓のお供に地元の名産品
乗車時、車窓のお供にと、北杜市のワイナリー・八ケ岳グランヴェールヴィンヤードで作られたワインと沿線地元で作られたチーズとケーキをいただいた。ワイナリーで醸造家を務める瀬沼瑠衣さんは、「北杜市は日照時間が長く、標高が高く気温が低いため栽培に適している」と話してくれた。席に付いている小さなテーブルにそれらを広げ、ゆっくり楽しむと、目だけではなく、口も暇を持て余す心配はない。

JRで日本一標高が高い駅
出発して約1時間が経過したころ、JRで最も標高の高い駅、野辺山駅(長野県南牧村)に到着した。ここで、20分ほど停車。列車を降りると、佐久平駅より一段と空気が冷えているように感じた。駅には乗客と列車のみ。「孤高の駅」という雰囲気を醸し出していた。

野辺山駅を発車すると、車掌から「まもなく進行方向右手にはJR鉄道最高地点(標高1375メートル)の碑が見えてまいります」とアナウンスがあった。

列車が徐行し始めると、乗客は一斉に車両の右側に集まった。ハイレールの列車名に付けられた「1375」は、この地点の標高が由来となっている。

JR鉄道最高地点を過ぎると、終点までは30分ほど。この日は、あいにくの曇り空だったが、小淵沢駅近くの大カーブで雪化粧をした南アルプスの山々を望むことができた。駅に着くと、職員がお出迎え。バスに乗り換えて本日の宿「リゾナーレ八ケ岳」へと向かった。

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山梨県北杜市は、JR東日本グループの企業と協力し、長野県と山梨県を結ぶJR小海線を使用した観光ツアーの開催を来冬から予定している。ツアーに先駆け3月5日から2日間、プレスツアーが行われ産経新聞の記者が体験した。
乗車したJR小海線は、小諸駅(長野県小諸市)から小淵沢駅(山梨県北杜市)を結ぶ全長78.9キロのローカル線。清里や野辺山といった高原も走ることから「八ケ岳高原列車」という愛称もついている。

地方路線は過疎化が進み、乗客の減少という課題を抱えている。小海線も例外ではない。特に、中込駅(長野県佐久市)-小淵沢駅間は沿線の過疎化などにより、赤字額も膨らんでいる。日常利用での回復が難しいため、沿線自治体の山梨県北杜市が観光利用に着目。同市のワイナリーや美術館などの観光地と小海線を一緒に楽しむ大人向きの1泊2日のツアーを企画し、集客を図る。
筆者:相川直輝(産経新聞)
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