岡山県津山市の山間部、阿波地区にあった森林公園がグランピング施設に変貌して約3年。年間利用者は約4倍、売り上げも20倍以上となり、話題を呼んでいる。
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ベッドや冷蔵庫、冷暖房などがあり快適に過ごせる グランピングテント

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岡山県津山市の山間部、阿波(あば)地区にあった森林公園(キャンプ場)がグランピング施設に変貌して約3年。年間利用者は約4倍の1万1000人超、売り上げも20倍以上となり、話題を呼んでいる。「古民家の宿、飲食店などを整備し、エリアまるごと田舎暮らしリゾートを完成させたい」と運営会社の担当者。SNSで発信される豊かな自然環境、野菜の収穫体験や渓流釣りなどの田舎体験アクティビティーが、近畿圏の若いファミリー層やカップル、友人グループの心をつかんでいるようだ。

豊かな自然とインフラの充実

この施設は「ザランタンあば村」。観光施設特化型の人材サービスを展開するDive(ダイブ、本社・東京都新宿区)が運営する。

「ザランタンあば村」のバンガローは改装で大きなテラスが設けられた(ダイブ提供)

阿波地区は平成17年に津山市に合併された旧阿波村のエリアで、人口約400人。市街地から一本道を車で約40分ほど走った突き当たりの立地になる。

市地域づくり推進室によると、「阿波森林公園」は自治体合併前から老朽化による大規模改修の必要性と利用客低迷という課題を抱えており、市は「公共R不動産」という公的不動産活用マッチングサイトで指定管理者を募集していた。

ダイブは「日本の原風景が残るうえ、光回線や上下水道、体育館や公民館、温泉施設などのインフラが整っていた。用事がある人しか訪れない、突き当たりの立地は逆に世界観をつくりやすい」と、手を挙げたという。

令和3年に10室のグランピングテントを新設し、既存のバンガロー5棟は大きなテラスを設け内装も大幅につくり替えた。野菜収穫・耕作体験や渓流釣り・川遊び、まき割りやまきのお風呂、テントサウナ、近くの馬の牧場でのふれあい体験、スパイスソルトづくりなどのメニューを徐々に充実させた。

「まるごと田舎暮らしリゾート」の舞台、阿波地区=岡山県津山市(ダイブ提供)

翌年には「あば交流館」「あば温泉」との3施設一体の指定管理者に。交流館は今年4月、相部屋で2段ベッドのドミトリー室と和室を備えたゲストハウス「クラフトホテルあば村 あば交流館」にリニューアルし、定員は21人から53人に拡大された。あば温泉にも改装計画がある。

受け入れられるまで一苦労

ただ、最初から地元にすんなりと受け入れられた訳ではない。

食事づくりを担当する地元出身の本松由貴さん(35)は「全く関係のない会社が外から入ってきて地域のことを理解できるはずもないし、何をやるのか、想像もつかなかった」と、第一印象を振り返る。

入社2年目の貴舩楓(きぶね・かえで)さん(23)は鹿児島県の口永良部島で人口100人ほどの環境で生まれ育ち、希望してやってきた。「地域活性化のノウハウを吸収し、いずれ地元に貢献したい」と入社したという。

「地区唯一の商店にこまめに顔を出し、人が集まっている所に行ってお茶を飲んだり、おしゃべりをしたり。ようやくスタートラインに立てた感覚」。現在は約40人の住民が雇用されている。

「ザランタンあば村」内で渓流釣りを楽しむ親子。この後、子供が魚を釣り上げた

もともと、住民は地域を向上させたいという思いで「あば村運営協議会」をつくっていた。本松さんは「こんなに人が訪れるようになるとは。地区に若い人の姿があるだけで活気がもらえる」と、今では信頼を寄せる。

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2世帯3世代に人気

年間利用者数は平成30年度の2562人から令和5年度は1万1339人。年商は約400万円から1億円弱に激増。市地域づくり推進室では「期待していた以上。SNSに絞った情報発信のうまさ、提供サービスのレベルの高さに感心した。地域経済が循環するような形で運営していただけている」と歓迎する。

ダイブの増田勇人地方創生事業グループGM(37)は「具体的な過ごし方や1カ所で全て済ませられる提案ができたのでは。何の準備もいらず、田舎の体験と休息の両方を満たせられる」と、人気の理由を分析する。

グランピング施設は「車で片道3時間圏内の都市部の需要が強い」という。実際、京阪神からの利用客が約80%、岡山市内からが15%となっている。また年齢層は、20代後半から30代が中心で、ファミリーが60%、カップルと友人グループが各20%。増田GMは「2世帯3世代での利用が多い印象だ。いろいろ体験してみたい子供たちと、田舎暮らしの経験がない都市部のシニアの両方のニーズを同時にかなえられるからでは」と分析する。

このほか、インバウンド(訪日外国人客)や、スポーツや文化・勉強の合宿需要にも取り組む方針。山菜の採り方や梅の漬け方をはじめ、地元の人にとっては当たり前にある日常に価値を置き、「住民の協力を得ながら運営し、同時に住民が生き生きと暮らせる地域の存続に貢献したい」と話した。

筆者:和田基宏(産経新聞)

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