日本はこれからどんな外国人政策をとるべきなのか―。国際協力NGO元会長の柳瀬房子氏が、移民をめぐる議論と、外国人の社会統合と支援の在り方を考察する。全7回。
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水道管工事の会社で作業するベトナム人技能実習生ら=2018年12月、東京都大田区(宮崎瑞穂撮影)

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日本語のこと

大きな壁は言葉だろう。日本では日本語を理解できないと、仕事に就くことも難しい。資格試験も日本語が必須だ。しかし日本語を頑張って学んでも、日本以外の国ではほぼ通用しない。私は親しい外国人から「私は結婚相手が日本人で、家族と同居するために日本語を学んだわけね。でも日本語は日本以外では役に立たないでしょう。コスパが悪い!」と(冗談めかして)言われたことがある。

常時、英語を使って仕事をしている人なら、新たにローカル言語を習得するよりも、英語を使って早く仕事を始めたいだろう。母語が英語でなくても、自国でアルファベットに馴染んでいれば、アルファベットを使っている国のほうが適応しやすいだろう。

これは、日本人が、日本語を話すかぎり、仕方のないことだろうか。

日本での技能実習を控え、希望を胸に日本語を学ぶ実習生たち=2018年11月、ベトナム・バクニン省

いや、そんなことはない。言葉の壁は世界中にあるが、工夫によって壁を低くすることはできるからだ。

日本語の壁を引き下げるには、二つの方法がある。一つは、来日する外国人やその家族への日本語教育の支援にもっと力を入れること、もう一つは英語(あるいは多言語)で働ける日本の職場を増やしていくことだ。この両方が不足しているからこそ、日本は外国人から選ばれにくいのだ。

自国でのキャリアや資格を活かせない

これは日本に限ったことではないが、母国でのキャリアや資格を活かせるかどうかが重要なカギとなる。自国では高度な専門知識を使って働いていたのに、残念ながら、日本は母国で培ったキャリアを活かしやすい国ではない。

例えば、母国では医師や看護師として活躍していたとしても、日本では医師国家試験や、看護師の国家試験を受けて合格しなければならない。一部の国では国家間の協定により医師資格の互換制度などもあるが、日本とそうした協定を結んでいる国はほとんどない。あるいは長年、教壇に立ってきたベテラン教師でも、日本の教員免許状を取得しなければ学校の教師になれない。また会社を経営していた人であっても、まず日本語の読み書き、会話ができないと、起業したり金融機関から融資を受けたりするのも簡単ではないだろう。美容・理容に優れた力を発揮していたとしても、これも日本語での国家試験の壁がある。

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初等・中等教育では優れた面も

日本へ避難してきた人々にとって、まずは就労して経済的に自立することが喫緊の課題となるが、一定期間でも定住するとなれば、子どもたちの教育環境もまた同じくらい重要になる。

その点、日本は義務教育を無償で受けられる。親が例えば、難民認定申請者として特定活動の「就労可」で働いていればもちろんのこと、何らかの事情で不法滞在であったとしても、その子弟については申し込みがあれば公立の幼稚園、保育園や小・中学校ではできるだけ速やかに子どもたちを受け入れている。もちろん、そこには日本人の税金が投入されているが、外国人も就労すれば納税者になることは忘れないでほしい。

近年は多文化共生の考え方が浸透しつつあり、日本の子どもたちも保護者も、学校が外国人の子どもたちに日本語教育や補完教育を行っても「差別だ」などとクレームをつけることもなくなり、むしろ積極的に協力・応援するケースも多く見られる。

介護にあたる外国人技能実習生=2018年12月、滋賀県彦根市(清水更紗撮影)

首都圏の保育園や小・中学校では、いまや外国にルーツのある子どもが学んでいるのは当たり前の光景になっている。

外国人財から選ばれるニッポンへ

私たちは、「日本は難民の受け入れ数が少ない」と言うとき、とかく難民認定申請者数に占める認定者数だけを見て「日本が難民を拒否している」という印象を持ち、だから「入管制度・認定基準を改善せよ」という結論に行き着きがちだ。

法制度の改善も議論すべきだが、もう少し視野を広げれば「そもそも日本は難民の避難先として選ばれていない」ことに気づくだろう。そしてそれは、日本は「外国人に選ばれる国」とは言い難いのが現実になりつつあるようだ。

「なぜ選ばれないのか」と考えれば、難民を含む外国人にとって(また、外国にルーツを持つ日本人にとっても)日本社会のどこが不便なのか、なぜ日本は暮らしにくいのか、といった課題が見えてくる。そうした課題を改善することは、本当に庇護や支援を必要とする人々を日本が適切に支援するうえで有効なだけでなく、日本が多文化共生社会へと成長するためにも意義のある取り組みになると、私は思う。

『週刊東洋経済』2023年12月2日号では、「外国人材が来ない!選ばれる企業・捨てられる企業」という見出しで特集が組まれていた。日本はもはや「選ばれる国」ではない、日本に外国人労働者が来なくなる日が目前である、という内容だ。日本は長らくアジアの新興国から「稼げる国」として人気があった。しかし現在(2023年12月)、一番人気は韓国、その次が日本で、第3位が台湾だ。その台湾も日本を追い上げているとのこと。折からの円安も重なり、日本に行っても希望が持てない状況になってきているようだ。

外国人は、日本社会を映す鏡のような存在と言える。そして、その鏡に映る問題の多くは、日本語教育や技能の習得機会の充実、信仰や慣習にも配慮した居住環境の確保をはじめ、政府・自治体による十分な予算と、民間の広範な理解や協力がなければ改善できないものだ。入管が変われば解決するという話では決してない。

皆さんは、どのようにお考えだろうか?

筆者:柳瀬房子(認定NPO法人、難民を助ける会前名誉会長)

[日本と移民]シリーズ(全7回)

■柳瀬房子(やなせ・ふさこ) 認定NPO法人、難民を助ける会前名誉会長。青山学院大学大学院総合文化政策学研究科修士課程修了。1979年にインドシナ難民を助ける会(現難民を助ける会)の設立準備に関わり、翌年、30歳で事務局長に就任。以来、半世紀近く日本の難民支援の草分けとして活動。2023年に退任後も、法務省難民審査参与員として尽力する。2024年12月に出版した『難民に冷たい国?ニッポン』(慶應義塾大学出版会)のほか、日本絵本賞読者賞を受賞した『サニーのおねがい 地雷ではなく花をください』(絵:葉祥明、自由国民社)など著書多数。

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