
がんゲノム医療の進展。遺伝子変異を解析し、治験とマッチングさせる(写真はイメージ)
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がんの原因となる遺伝子変異を調べて、一人一人に適した薬を見つけるオーダーメードの「ゲノム医療」が広がりつつある。
その入り口になる「がん遺伝子パネル検査」は、令和元年6月に保険適用され、6年度までに全国280の医療機関で約10万例が実施された。国立がん研究センターが公表した。
パネル検査の広がりは、がん治療を変える可能性がある。今は、手術、放射線、抗がん剤などを用いた科学的根拠に基づく「標準治療」が基本で、パネル検査を受けられるのは、この標準治療を終えたか、終了見込みの人だ。
検査によって標準治療以後の選択肢が見つかる患者が一定数いることが分かってきた。「ゲノム医療」の恩恵を多くの患者が受けるには、経験や蓄積のある医療機関で臨床試験(治験)に参加しやすくするなど環境整備を進めていく必要がある。
パネル検査を受けたのは膵臓(すいぞう)、卵巣、頭頸(とうけい)部など治療の選択肢の少ない患者が目立つ。検査の結果、例えば膵臓がんの患者に乳がんに典型的な変異が見つかれば乳がんに使われる薬が選択肢として浮上する。

課題は選択肢が見つかっても必ずしも治療に結び付かないことだ。検査後に何らかの薬が示された患者は約半数に上るが、実際に投薬できたのは全体の10%弱との調査結果もある。
背景には、検査で示された薬が保険適用とはかぎらないことなどがある。日本で未承認であったり、患者の疾患には適応外であったりする。この場合、企業や医師が行う臨床試験への参加が有力な方法だが、都市部の大病院での実施が多く、地方の患者には体力的、経済的に参加の負担が大きい。
臨床試験の情報を分かりやすく発信したり、医療機関が連携してリモートで行う臨床試験を増やしたりして、治療につなげていくことが急務である。
患者が臨床試験に参加しやすくなれば、製薬会社も日本での新薬開発に着手しやすくなる。欧米では承認済みでも、日本では開発に未着手の「ドラッグロス」の解消にも寄与しよう。
パネル検査の利用による治療効果が明らかになれば、より早いタイミングで使うことを考えていく必要がある。がんゲノム医療の未来に期待したい。
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2025年5月27日付産経新聞【主張】を転載しています
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