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日本製鉄と日本政府はUSスチールの買収実現へ、米側への働きかけを強める構えだ。買収に失敗すれば、日本側は米国市場で事業拡大の機会を失うばかりか中国鉄鋼業を利する恐れもある。企業競争力向上や雇用維持という米国のメリットを訴え、米当局の年内の買収承認を後押しし、トランプ次期米大統領とはディール(取引)への持ち込みも視野に入れる。
「USスチールを成長させるとともに米国の国家安全保障を強化する」
日鉄は12月3日、トランプ氏の買収への反対表明を受け、声明で買収の意義を強調した。USスチールの製鉄所などへの計27億ドル(約4千億円)以上の投資も重ねて表明し、雇用維持も約束した。
石破茂首相は3日の衆院本会議で、トランプ氏の反対表明について問われ、直接の言及は避けつつ「日米相互の投資拡大を含めた経済関係の強化は不可欠だ」と述べた。
日鉄はこれまで、米大統領選で顕在化した政治リスクの回避に注力してきた。計画を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)への申請をいったん取り下げ再申請。今年9月だった審査期限は選挙後の12月に延びた。
日本政府は静観の姿勢を貫いてきたが、トランプ氏が勝つと首相自ら動いた。ロイター通信によると、首相は11月にバイデン米大統領に書簡を送り、良好な日米関係を引き合いに計画の承認を求めた。
経団連の十倉雅和会長は3日の記者会見で「バイデン政権で結果が出ると理解している」と述べた。日本側としてはトランプ氏の大統領就任前に決着をつけたい考えだ。
だがトランプ氏就任で〝破談〟も現実味を帯びる。買収が失敗すれば、日鉄は米国市場取り込みの機会を失う。世界で存在感を増す中国鉄鋼業への対抗軸が揺らぎ、中国を念頭に置いた半導体など経済安保上の日米連携にも水を差しかねない。
トランプ氏は自らの利益次第で取引に応じることもあり、日本政府関係者は「米国の利点を粘り強く訴えれば理解を示すかもしれない」と話す。
筆者:中村智隆(産経新聞)
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