ウクライナとロシアの戦争の行方が依然不透明な中、ウクライナ人の負傷者を日本の医療技術で支援する動きが始まった。医師らが兵役に取られ人手不足にも苦しむ医療現場に〝日の丸医療〟が貢献する。
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ウクライナ西部リビウのリハビリセンターで、歩行支援ロボ「RE―Gait(リゲイト)」を左足に装着し歩行練習する男性(弓削類氏提供)

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ウクライナとロシアの戦争の行方が依然不透明な中、ウクライナ人の負傷者を日本の医療技術で支援する動きが始まった。広島大学の弓削類名誉教授らが開発した軽量の歩行支援ロボットを使い、爆撃や銃撃などで脳を損傷した人が正常に歩けるようにする取り組みだ。医師らが兵役に取られ人手不足にも苦しむ医療現場に〝日の丸医療〟が貢献する。

ウクライナ西部リビウにある同国最大級のリハビリテーションセンター。渡り廊下で、介助を受けたウクライナ人男性(31)が右手でつえをつきながら歩行練習していた。

男性はロシア兵から至近距離で撃たれて頭部の右半分が大きく損傷し、一命を取り留めたが左半身が不随に。車いすでの生活を余儀なくされていた。初め歩くスピードは遅かったが、約10分後、つえを使わず、より速く歩けるように。男性の左足首に装着されていたのは歩行支援ロボ「RE―Gait(リゲイト)」だ。

弓削氏が早稲田大と共同開発。足首の動きをモーターで助け一人で歩けるようにする装置で、炭素繊維でつくられ重さは1キロとコンパクト。「効果と軽量化にこだわって開発した」(弓削氏)という。

タブレットを使って患者の歩行状態に合わせたプログラムを組むことが可能で、脳卒中、頭部外傷、パーキンソン病、変形性膝関節症などさまざまな症状に対応できる。

つま先を上げてかかとから接地するようにするなど足の動きを補助。脳が正しい歩き方を学習することで異常な動きがなくなる。

広島大の弓削類名誉教授(右)と、ウクライナ人医師のリュボフ・コロシンシカさん=大阪市内(山口暢彦撮影)

2016年に国内で発売後、これまで医療機関で千件超の使用例があるという。弓削氏は「リゲイトを使ってリハビリを週に数回続けると、患者は正しい歩き方を身につける」とする。

22年2月にロシアから侵攻を受けたウクライナの苦境を救おうと考えたのは、約25年前にカナダへ留学したときの記憶があるからだ。

「奨学金をもらって留学していた暮らしを、ウクライナの人たちが助けてくれた。ロシア侵攻後のウクライナの現状をみて、私が持っている技術で貢献できると思った」

そして知人のジョージアの脳外科医、国際NPOなどと支援のあり方を模索。今年4月、リゲイト2台をリビウのリハビリセンターに寄贈した。「多くの患者に使われ、『効果が速く出て使い勝手がいい』との声が寄せられている」という。

寄贈に先立ち使い方の講習のため来日した医師のリュボフ・コロシンシカさんは「破壊されたほかの医療機関から(勤務先である同センターへ)患者が集中していることもあり、医師側は人手不足。こうしたロボットや技術は大きく貢献してくれる」と話す。

戦争や紛争は世界各地で起こり、同じ課題を抱えている。弓削氏は「政府などとも協力しながら、ウクライナ以外にも支援を広げたい」としている。

筆者:山口暢彦(産経新聞)

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