海外の愛飲家も念頭に高品質・高価格の〝ラグジュアリー日本酒〟を編み出した、日本酒ブランド「SAKE HUNDRED」を運営するClearが注目を集めている。消費者離れが続く日本酒に好感を持ってもらおうと、市場の底上げに全力を挙げる。
SAKE HUNDRED3

日本酒ビジネスで改革を起こしているClear代表取締役CEOの生駒龍史氏(提供)

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高級日本酒ブランド「SAKE HUNDRED(サケ ハンドレッド)」を運営するClear(クリア、東京都渋谷区)が注目を集めている。海外の愛飲家も念頭に高品質・高価格の〝ラグジュアリー日本酒〟を編み出し、人を引きつけているからだ。消費者離れが続く日本酒に好感を持ってもらおうと、ウェブで酒の魅力を発信することにも力を入れるなど、市場の底上げに全力を挙げる。

ラグジュアリー日本酒を標榜するSAKE HUNDREDでは、作り方や見栄えにこだわり抜いた、1本数万円から数十万円の高級日本酒を販売する。1本3万円超の720ミリリットル瓶が抽選販売になるなど、人気は拡大中だ。2025年大阪・関西万博の海外パビリオンでもVIPをもてなす日本酒としてふるまわれているものもある。従来の日本酒とは一線を画すことから、投資家サイドの期待も高く、資金調達額は累計で24億4千万円に達した。

2013年にClearを設立した生駒龍史代表取締役CEO(最高経営責任者)はブランドの定義を「心を満たし、人生を彩ること」とする。健康志向の高まりで、ヘルシーな和食を提供する日本食レストランは海外で増えており、和食に合う日本酒がよく飲まれるようになっている。生駒氏は「世界のレストランで高級酒の定番としてわれわれのブランドを選んでもらいたい」と話す。

全国各地に取材した生駒龍史氏。菊正宗では名誉杜氏に話を聞いた

生駒氏が日本酒のビジネスに飛び込んだのは11年、25歳の頃だった。熊本県酒造研究所(熊本市)の「香露(こうろ)」という酒に出合い、そのおいしさに驚く。調べると、初代所長は明治から昭和中期にかけて、科学やデータを重視した近代的な酒造りを行い、日本の酒造技術の発展に貢献をした人物。特に酒米を磨いて雑味を少なくし、香りを引き出した香露の吟醸酒は、吟醸酒のお手本ともいわれる。技術革新で生まれた酒に引き込まれるように、自らも日本酒ビジネスの変革を追求するようになった。

やがて始めたのが、酒蔵や日本酒に関する情報を集めた日本酒専門ウェブメディア「SAKETIMES」の運営だった。現地に足を運んで情報発信することにこだわり、自ら全国の酒蔵を訪ね歩いた。「月の半分は地方に出ていた時期もあった」と振り返る。当時はインターネット上の情報を収集、整理してまとめる「キュレーションメディア」がはやっていたが、生駒氏は「検索しても出てこない情報を足を使って出すことに価値があり、自分たちの資産になる」と信じて情報を集め続けた。

八海山の南雲二郎社長(左)から大きな影響を受けたという(提供写真)

そんな中、取材に出た香港で、日本酒が1本約40万円で取引されているのを目のあたりにして衝撃を受けた。「おいしいお酒に数十万円を出す人が世界にいることを知ったのは大きな学びだった」といい、日本酒が海外の富裕層に愛飲されていることを肌で感じ取った。一方、日本酒の国内出荷量は1973年の約177万キロリットルをピークに4分の1以下まで減少している。「グローバル志向のブランドを作って日本酒の持続可能性を模索しよう」とSAKE HUNDREDが誕生した。

SAKE HUNDREDは8つの酒蔵に醸造委託する。ウェブメディアを運営して全国各地の酒蔵の経営者らと人脈を築いた経験が生かされている。夏の抽選販売受け付け中の看板商品「百光(びゃっこう)」(3万8500円)は、昨年の抽選販売で商品1万本に対し7万人の応募が集まる人気商品に成長した。

生駒氏はSAKE HUNDREDで低迷が続く日本酒市場を浮上させたい考え。「酒蔵や酒米農家などサプライチェーン(供給網)全体の利益にもつなげていく」と力を込める。「海外ではニーズがある。ワインやシャンパンに続くことができれば、(市場が拡大する)可能性は大きくなる」と期待を寄せる。

筆者:安田奈緒美(産経新聞)

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