トランプ米政権が米国のハーバード大学に対し、外国人留学生を受け入れる資格を取り消すと通知した。ハーバード大は資格取り消しは違憲と訴え、連邦地裁は一時的に差し止める決定を下したが、政権は対決姿勢を一段と強めている。
Harvard University

ハーバード大のキャンパス=4月、米東部マサチューセッツ州(ロイター=共同)

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トランプ米政権が米国のハーバード大学に対し、外国人留学生を受け入れる資格を取り消すと通知した。

発端は、パレスチナ自治区「ガザ」での戦闘をめぐるイスラエルへの抗議デモがハーバードなど各地の名門大で広がったことだ。

米国土安全保障省は、大学側がデモに適切に対応せず、反ユダヤ主義を助長させたとし、デモを扇動した多くは留学生だと指摘した。

抗議デモには行き過ぎた主張もあり、ユダヤ人の一部学生が脅迫行為と受け止めたのは事実だ。だが、そうだとしても留学生全体に罰を負わせるような政権の措置はおかしい。通知を撤回してもらいたい。

ハーバード大は資格取り消しは違憲と訴え、連邦地裁は一時的に差し止める決定を下したが、政権は対決姿勢を一段と強めている。政府機関が大学と交わした調査研究などの契約の打ち切りまで指示した。

国土安全保障省は、ハーバード大と中国共産党との関係も問題視している。ルビオ米国務長官は、共産党と関係のある中国人留学生のビザを取り消す方針を表明した。

ハーバード大は中国共産党幹部の子弟を受け入れ、研究者による情報流出など安全保障上の懸念も指摘されてきた。これについて大学当局は説明責任を果たすべきだ。

米東部マサチューセッツ州にあるハーバード大近くの公園で、高等教育機関に対する政府の介入に抵抗を呼び掛けるデモの参加者 =5月12日(ロイター)

ハーバード大への圧力の真の狙いは、トランプ大統領が「リベラル・エリートの牙城」と敵視する名門大の弱体化にあるとみられる。それは、世界の知を結集させてきた超大国のソフトパワーを損なう自傷行為と言わねばならない。

政権はハーバード大への措置を「すべての大学や学術機関への警告」とし、米国留学を希望する学生のビザ申請面接の新規予約の一時停止も指示した。

米国は、成功を夢見る人材や専制主義国で弾圧された研究者を引き付け、チャンスを与えてきた。それは何より、軍事・経済を含む米国の優位性を築いてきたのではなかったか。

米東部ニューヨーク市のコロンビア大で拘束され、警察の車両に乗せられるデモの参加者=5月7日(ロイター)

研究助成の凍結で多くの分野の研究が中断している。流出頭脳の獲得競争も激化しよう。ハーバード大には日本人の学生・研究者も260人いる。日本は国益を重視し、学術上の安全保障に勘案しながら留学生・研究者の受け入れに動くべきだ。

2025年5月30日付産経新聞【主張】を転載しています

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