
ラピダスが北海道千歳市で建設中の工場を視察した武藤経産相(中央)
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半導体は単なる工業製品ではなく、国家安全保障にも関わる戦略物資だ。政府支援を通じ、官民一体で半導体産業の再興を着実に進めてほしい。
政府がラピダスを念頭に関連法案を今国会に提出した。ラピダスに1千億円の出資を予定しており、税優遇や債務保証も含めた金融支援の枠組みを整える。確実に成立させたい。
米国や中国をはじめ海外では巨額の政府支援によって、半導体産業の強化を進めている国が少なくない。台湾有事を見据え、世界的な競争力を持つ国内半導体メーカーを育て、サプライチェーン(供給網)を強靱(きょうじん)化することは日本経済にとっても大きな意義がある。
半導体は回路線幅が細くなるほど性能が高まるが、国内メーカーは演算や制御といった「頭脳」となるロジック半導体では40ナノメートル(ナノは10億分の1)の汎用(はんよう)品しかつくることができない。

かつて世界シェアの過半を握っていた国内の半導体産業は技術革新に乗り遅れ、世界的な競争力を失った。
こうした状況を打開しようと、ラピダスは回路線幅2ナノメートルという最先端半導体の量産を目指している。令和9年の量産開始に向けて、北海道千歳市の工場で今春から試作ラインを稼働する。
政府はラピダスに対し、これまでに9200億円の補助を決めているが、民間企業からは十分な資金を得られていない。ラピダスは量産開始までに計5兆円が必要とされており、政府が継続的に支援する姿勢を明確に示し、民間資金の呼び込みにつなげたい。
巨額の政府支援には批判もある。国産化に失敗すれば国民負担が生じるだけに、失敗は許されない。
ラピダスには、車の自動運転などユーザー企業の具体的な用途を念頭に最先端半導体を供給することで、国内産業への波及効果が期待されている。早期に民間主導に移行するためにも、試作品でユーザー企業が納得できる性能や品質を示すことが求められる。
半導体は製造時に大量の電力を消費する。このため、質の高い電力を安定的に供給することが欠かせない。ラピダスの成功には、北海道電力泊原発3号機の再稼働を着実に進めることも重要となる。
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2025年3月4日付産経新聞【主張】を転載しています
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