Japan 2019 Nobel Prize in Chemistry Akira Yoshino

 


 

今年のノーベル化学賞に輝いた旭化成名誉フェローの吉野彰氏(71)は12月10日のストックホルムでの授賞式を前に、産経新聞のインタビューに応じ、自身が開発したリチウムイオン電池を電気自動車などに活用することで、人類は地球温暖化の環境問題を「絶対に克復できる」と強調した。

 

吉野氏は現代をモバイルIT革命に続く「AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)による第4次産業革命の前夜」と指摘した。
「未来の自分を見据えて経験を積んでほしい」と若手の活躍に期待を寄せた。

 

主な一問一答は次の通り。

 

 

企業研究者としての受賞となった

 

「リチウムイオン電池の源流をたどると1981年にノーベル賞を受けた福井謙一先生や、ポリアセチレンを発見し19年後に受賞した白川英樹先生につながる。さらに19年後に私が受賞する。大学が真理を探究し、産業界へとバトンタッチして成功した。さらに発展し、19年後にリチウムイオン電池を組み込んだ社会システムの構築が授賞対象になるだろうか」

 

優れた研究開発を行うには、何が必要か

 

「マラソンのようにゴールがきちんと設定できること。難しいが、10~15年先に必要とされるものを読み取ることがまず大事だ。それを実現する研究、そのための専門能力や経験が必要だ。一番大事なのは自信を持つこと。そうすれば絶対に乗り越えられる。従来は産業界にモデルがなかったが、リチウムイオン電池というよい先例ができた。産業界の人でもノーベル賞をもらえる。若い人がまねしてくれれば」

 

日本が技術革新を加速し、競争力を高めるためにはどうすればよいか

 

「国内でスマートフォンやコンピューターなどの組み立て産業が衰退しても、中身の基幹的な部品や材料を担う川上の産業は健闘している。川下に、グーグルなど米巨大IT企業のGAFA(ガーファ)に相当するような力を持つ日本企業が出て世界を引っ張り、川上とつながると、ものすごく強くなる。そのために、日本でベンチャー企業が育たないといけない」

 

リチウムイオン電池が生んだモバイル社会は便利だが、功罪がある

 

「正直よく分かる。携帯電話はプライバシーの侵害も甚だしい(笑)。だが、より多くの人とのコミュニケーションができるようになり、功の方が大きいだろう」

 

IT革命は社会を変える引き金になった

 

「開発され商品になった85(昭和60)年からの10年間は皆、会社の垣根を越えて情報を共有して燃えていた。今の状況はそれに似ており、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)による第4次産業革命の前夜だ。安くて環境に大きな貢献をする産業を生み出す力を、AIやIoTは持っている。環境問題という負の遺産を解決する革命になる。そのときにリチウムイオン電池がどう関係して新しい世界を見いだすか。とても楽しみだ」

 

どんな未来社会を切り開くか

 

「リチウムイオン電池の役割はエネルギーの潤滑剤。太陽電池や風力発電などと違い発電能力はないので主役ではないが、電気を必要なときに効率よく使うための蓄電機能を担う。社会システムにどう組み込んでいくかが課題だ。電気自動車がその役割を果たすのではないか。環境問題は、持続可能な道筋を打ち出さないといけない時期だ」

 

人類は環境問題を克服できるか

 

「絶対できる。言い切る。そんなに遠くない将来、まさに第4次産業革命の成果としてだ。それが便利で安い、とんでもない巨大産業を生み出す。若い人には絶好のチャンスだ。なくなる産業も当然あるが、新産業にシフトできる会社はより大きくなる。手を打たなければ消滅する」

 

日本の科学研究力が低下している

 

「私は33歳でリチウムイオン電池の研究を始めた。35歳前後の人は知恵や権限を獲得し動きやすかったが、いまその年代の研究者がそういう状況にあるか。そういう年代が活躍できるようにならなければ」

 

若者にメッセージを

 

「学生は目標を持っているが、道筋が見えていない。周りに成功体験を持つ人がいない。やり方が分からず、もんもんとしているようだ。35歳の未来の自分を見据えて勉強したり経験を積み、時期が来たら一気に吐き出しなさい」

 

理科離れについて

 

「刺激が必要だ。スポーツでも科学でも何の分野でも良いから、月に1度は新聞の1面トップに、誰かがこんな活躍をしてこんな賞をもらったという記事があれば子供が刺激を受ける。今回の私のことで、何人かでも喜んでくれれば嬉しい」

 

 

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