南モンゴル(中国の内モンゴル自治区)は今、大きく揺れている。小学生から高校生までの児童・生徒、そしてその保護者とメディア関係者、大学教師、公務員など、モンゴル人は民族を挙げて中国政府の文化的ジェノサイド政策に反対の声を上げている。
中国が企む歴史と文化の抹殺
ことの発端は6月末に明るみに出た政策だ。今秋から逐次、モンゴルの民族学校でも授業を中国語に切り替えていくとの政策だ。モンゴル人の「国語」にあたる「モンゴル語」の授業だけを残し、他は全部、異民族の言葉、中国語で実施するという。モンゴル人が中国語を「キタド・ケレ」(漢人の言葉)と呼んできたのも禁止され、代わりに「母国語」と呼ぶよう強制された。これは、モンゴル人の母語はモンゴル語ではなく、中国語だと嘘をつくよう強要されたことを意味している。
私は早い段階で北京当局の陰謀を把握し、反対の署名活動を始めた。モンゴル人の多くは当時、正式な文書がないから大丈夫だろう、と甘く判断していた。ところが、数十万冊もの新しい教科書が届き、開いてみると、何と、国語の第一課は「私は中国人」と中国語で印刷されているではないか。モンゴルの物語や民謡はもとより、「モンゴル」という言葉自体がすべて消えていた。モンゴルの歴史と文化が抹殺されている現実に直面して、子どもたちとその保護者、いや、モンゴル人全体の怒りが爆発したのである。ここから、自治区全体で授業をボイコットし、反対の署名を呼びかける運動が燎原の火の如く全モンゴル人地域に広がっていった。
モンゴル国の同胞からも支援
私が7月28日から8月10日にかけて立ち上げた署名サイトには3641人もの支持者の賛同を得ることができた。その半分が同胞の国、モンゴル国(北モンゴル)からのものだ。こうした結果は、南北モンゴルが1945年に大国の謀略(米英ソのヤルタ協定)によって分断された後も、同じチンギス・ハーンの子孫で、同じ心理を共有し、同じ歴史を創造してきたという民族意識が少しも変わっていない事実の表れである。モンゴル国のモンゴル人は、同胞たちが中国に抑圧されている事実を以前から知っており、南モンゴルのモンゴル人と同じように我慢してきた。もうこれ以上は許せない、と積極的に支援を始めたのである。
内モンゴルの3分の2はかつて日本の影響下にあった。日本は若いモンゴル人の憧れの地である。若いモンゴル人たちの命を懸けた闘いに日本も積極的に関与し、モンゴル人を応援してほしい。国際社会への関与は、日本の憲法改正の実現にもつながる。
筆者:大野旭(楊海英)(静岡大学教授)
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国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第717回・特別版(2020年9月7日)を転載しています