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文在寅政権の韓国は、価値観外交を拒否した。21日の米韓首脳会談を見ると、そう結論せざるを得ない。
中国の名指し非難避ける
まず、米韓共同声明には中国という言葉が一度も出てこない。菅義偉首相の訪米時の日米共同声明(4月16日)では、中国という言葉が5回登場し、そのうち2回で「威圧の行使を含む、ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念」「南シナ海における、中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動への反対」と明確に中国を批判した。
一方、米韓共同声明ではほぼ同じことを「ルールを基盤とする国際秩序を阻害し、不安定にし、または脅かす全ての行為に反対」「南シナ海及びその他の地域で平和と安定、合法的で妨害されない交易、及び航行・上空飛行の自由を含む国際法の尊重を維持」と書いたが、どの国が国際秩序を阻害し、南シナ海で国際法を侵害しているかについて触れていない。「台湾海峡の平和と安定の維持」という言葉は入ったが、日米声明にあった香港と新疆ウイグルの人権状況への懸念もなかった。
その上、日米両国が共同声明で「自由で開かれたインド太平洋を構築する」「日米豪印(クアッド)を通じた豪州、インドを含め、同盟国やパートナーと引き続き協働していく」と表明したのに対して、米韓共同声明は「インド太平洋に対するそれぞれのアプローチに基盤を置く」「韓国の新南方政策と米国の自由で開かれたインド太平洋構想を連携させる」「クアッドなど開放的で、透明で、包摂的な地域多国間主義の重要性を認識する」と書いた。つまり、韓国は自由で開かれたインド太平洋構想を共有しておらず、クアッドにも加わる意思がないのだ。
北には融和姿勢
北朝鮮への対処でも米韓両国は微妙な立場の違いをみせた。共同声明で文大統領は米国の新しい北朝鮮政策への支持を表明したが、その政策について「北朝鮮との外交に開かれており、それを模索する取り組み」と記して、米朝会談の進展を渇望する立場を隠さなかった。また、米韓両国は北朝鮮の人権状況の改善に協力するとしたが、そのすぐ後ろで人道支援を促進することも約束した。文政権は人道支援一辺倒で、北朝鮮が嫌う外部情報流入は促進するどころか取り締まりの対象にしている。
米韓共同声明は、北朝鮮と国際社会が安保理決議を完全に履行することを求めた。これは制裁の維持を意味するが、文政権は人道支援について制裁の対象ではないと強弁してきたから、制裁を緩めようとしている姿勢は変わらない。
文大統領は、中国という全体主義勢力との対決を避け、北朝鮮への融和を重視する姿勢を維持した。中国は日米首脳会談にはすぐに強く反発したが、米韓首脳会談には批判の声を上げていない。文政権の韓国は価値観外交のパートナーではない。
筆者:西岡力(国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授)
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国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第796回(2021年5月24日)を転載しています