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菅義偉首相は、2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減する目標を発表した。その達成には、常識的に考えて、既存原発の活用はもちろんのこと、原発の新増設やリプレース(建て替え)が不可欠である。ところが、政府のエネルギー基本計画の柱となる2030年度の電源構成の見直しでは、原子力は現行目標の据え置きで調整が進んでいると報じられた。
太陽光や風力のように発電量が変動する「変動再エネ」はバックアップ電源を要し、火力に頼らないとすれば、その部分も原発が担うしかない。さらに太陽光パネルや風車には景観破壊、土砂崩れ、漁業破壊などの問題が伴う。台風が多いなど日本の自然条件を考えれば、さらなる設置の余地は大きくない。
地元首長・議会は再稼働賛成
政府は原発の活用を明確に打ち出さねばならないが、及び腰である。特に、切り込み隊長的役割を果たすべき梶山弘志経済産業相、小泉進次郎環境相が曖昧な発言に終始している。及び腰の理由は「世論の反発」を恐れてのことらしい。しかし問題は、どこの、どういう形の世論を重視するのかである。
大手メディアが誘導尋問的に行う全国世論調査を気にする限り、行動マヒは続くだろう。事を実際に動かすに当たって何より注視すべきは、原発活用に協力してくれる可能性の高い地方自治体の世論である。そうした自治体の一つは間違いなく、これまで多くの原発を受け入れている福井県であろう。そして代議制民主主義を採る日本において、最も重んずべき世論の形態は選挙結果である。すなわち県民が選んだ知事、県議会、市町村長の言動に反映された民意である。
4月23日、運転開始から40年を超える関西電力美浜原発3号機(福井県美浜町)と高浜原発1、2号機(同高浜町)について、福井県議会は再稼働を前提とした意見書を賛成多数で可決し、同時に、さらなる慎重な議論を求める決議案を否決した。再稼働を事実上容認したわけである。
これを受けて27日、「国の原子力政策の明確化」を再稼働の必須条件としてきた杉本達治知事は梶山経産相と会談、「将来にわたり持続的に原子力を活用していく」との言質を得て、28日、全国初となる運転40年超の原発の再稼働同意を発表した。
この決定を、地元の戸嶋秀樹美浜町長は「国のエネルギー政策推進に大きく寄与する意義ある判断だ」と歓迎、野瀬豊高浜町長も「(運転中の高浜3、4号機を含めた町内の)原発4基は地域経済にも財政にも大きな影響がある。安堵している」と語っている。
政治家は原発の意義を説け
地元は、地域振興策に釣られて迷惑施設を受け入れてきたと見るのは一面的かつ無礼である。福井県民の1人として敢えて言うが、戸嶋町長が示唆した通り、地元には、日本のエネルギー安全保障に欠かせない原子力政策に進んで協力してきたという誇りも存在する。
中央の政治家は、国の原子力政策の明確化を求める協力自治体の声に応え、原発の意義を堂々と説かねばならない。そうでなければ政治家失格である。
筆者:島田洋一(国基研企画委員兼研究員・福井県立大学教授)
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国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第791回(2021年5月17日)を転載しています。