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台湾有事が日本有事になることは、あえて触れるまでもないだろう。米国では、その台湾有事への危機感がこれまでにないほど高まっている。その危機認識は日本政府、与党も共有しているはずだ。
存在しない日台調整の枠組み
日台関係に絞ったとしても、台湾有事の際に日本政府が実施すべきことは多い。
台湾在住邦人約2万5000人と旅行者に対しては、情勢が緊迫した段階で帰国を促すことになるが、民間航空路が閉ざされてからの救出や、救出できない邦人の台湾内における保護は政府の責任だ。ところが、仮に自衛隊が救出に向かうとしても、台湾総統府、台湾軍との調整の枠組みは存在しない。
ロシア軍に侵略されたウクライナでは、人口の2割、約800万人が国外に避難している。台湾の人口の2割は約460万人だ。パスポートを持たず、約110キロ先の日本の与那国島や石垣島に舟で流れ着く台湾人も多いだろう。住民を島外避難させている中、台湾難民の受け入れは、自治体では対応できない。
ましてや、自衛隊と台湾軍の間では、台湾や与那国島周辺における情報共有さえ行われていない。
ここまで放置されてきたのはなぜか。その原因は1972年の日中共同声明に遡る。「一つの中国」の承認を迫る中国政府に対し、日本政府は台湾が中華人民共和国の一部であるとの中国政府の立場を「理解し、尊重する」と返した。台湾が中国の一部であることを認めはしないが、一応、承っておくとの姿勢だ。爾来、日本の政府機関が国交のない台湾の当局と公式に交流することは憚られてきた。それが今も続いている。中国による台湾武力統一の危険が叫ばれている時、このままでいいのか。
危機対策の具体化を急げ
民主主義体制の台湾が存続することは日本の国益にかなう。ましてや日本人の命に関わる問題である。台湾人の意志による平和統一なら、理解し尊重すればいい。しかし、台湾の意に反して武力統一を試みる行為は、ロシアがウクライナと一体だと主張して軍事侵攻した構図と重なる部分がある。その行為は民主主義に対する権威主義の侵略であり、断じて許してはならない。
中国による台湾侵攻の可能性が高まっている中、最悪の事態に備え、必要な準備を進めるのが国家としての危機管理だ。台湾の邦人保護、先島諸島の住民保護は、昨年12月に閣議決定された国家安全保障戦略など3文書で対応の方向性が示されている。今はこれら文書に基づき対策の具体化を急ぐべき時期だ。
国家安保戦略が「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と位置付けた中国の蛮行から日本人の命を、そして日本の国益を守るため、政府・与党が指導力を発揮し、台湾との連携強化を推し進めなければならない。
筆者:岩田清文(国基研評議員兼企画委員)
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国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第1029回(2023年4月3日)を転載しています