ヒマラヤ氷河の融解で標高5010メートル付近に形成された
氷河湖「イムジャ・ツォ」。現在も毎年数十メートルのペースで拡大を続ける
=2010年5月、ネパール・チュクン
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4月上旬、2年半ぶりにヒマラヤを訪れたが、驚いたのはエベレストのベースキャンプ手前の氷河が解け出し、大きな川になっていたことだ。シェルパたちも「このままではベースキャンプが使えなくなる」と嘆いていた。そしてつい先日、ネパール当局が正式にエベレストのベースキャンプの移動計画を発表した。ヨーロッパアルプスでも同様に氷河の急激な融解が深刻な事態を招いている。
気候変動により世界レベルで氷河が融解しているのだ。洞爺湖サミット(平成20年)や別府で開催された第1回アジア・太平洋水サミット(19年)でも「気候変動による氷河の融解」が訴えられたが、多くの専門家たちの予想よりもはるかに速いスピードで事態は進行している。
気候変動への取り組みについて、あの原発事故以降、社会がトーンダウンするのを感じてきた。温暖化対策の切り札のひとつとして「原子力発電所」の存在があった。21年、鳩山由紀夫首相(当時)が国連気候変動首脳会合で「温室効果ガス1990年=平成2年比25%削減」を打ち出した。これを受けて政府は、原子力発電の割合を5割に引き上げるエネルギー基本計画をまとめた。しかし、その原発が事故を起こしてしまい、温暖化対策は白紙に戻った。老朽化で停止していた火力発電所を慌てて再稼働させ、全国各地で山林を大規模に伐採して太陽光のメガソーラー発電所が建設された。
これでは白紙どころか逆行していると言わざるを得ない。世界有数の地熱資源と地熱発電技術を有している日本で地熱発電の割合を高めない手はない。
「原発の大半が停止しても電気は足りたじゃないか」という意見もあるが、「老朽化した火力発電所を無理やり動かしている。いつ停止してしまうのかギリギリの状態。満席のジャンボジェット機が海面すれすれを飛んでいる綱渡りの状態」とはある火力発電所所長の言葉だ。
政府による「節電要請」は国家の根幹でもあるエネルギー政策の敗北を意味する。「電気より命が大切だ」という声もあったが、「その命を守っているのが電気」ということを忘れてはならない。
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筆者:野口健
アルピニスト。1973年、米ボストン生まれ。亜細亜大卒。25歳で7大陸最高峰最年少登頂の世界記録を達成(当時)。エベレスト・富士山の清掃登山、地球温暖化問題など、幅広いジャンルで活躍。新刊は『父子で考えた「自分の道」の見つけ方』(誠文堂新光社)。
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2022年7月7日付産経新聞【直球&曲球】を転載しています