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尖閣諸島の実効支配へ向けた動きを半世紀にわたってジリジリと強化している中国と、それに口先だけで反対する日本政府との差が、ついにここまで来てしまったかと複雑な思いがする。日本の海上保安庁に当たる中国の海警局に「管轄海域」で違法行為を取り締まるための退去命令や武器使用の権限があることを明記した海警法が2月1日付で施行された。

 

中国が領有権を勝手に主張する尖閣諸島の緊張は一挙に高まるが、日本政府はバイデン米新政権に日米安保条約の適用を要請するだけで、領域警備を強める具体的な法整備については「腰は重く、有効な対策を打てていない」(日本経済新聞1月29日付)。

 

 

中国の海警法施行に無策の日本

 

今から十数年前、国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)がインドの研究所と討論をするためにニューデリーを訪れた際に、地政学者のブラーマ・チェラニー教授と会談した。その際、同教授は中印国境紛争から具体例を選んで、中国が人目につかぬように少しずつ領土を実効支配していく様子を「サラミソーセージの理論」と説明した。

 

今回施行された海警法はサラミソーセージどころではなく、この海域の一方的な現状変更である。日本側の不作為は状況をさらに中国有利に傾ける。

 

中国への「配慮」からだろうか。灯台建設を認めてはいけない、地図上で灯台の存在を明記するのも許さない、というのが日本政府の意向であった。領有権の正当な主張を自制し、結果的に中国を有利にするのが日本政府の役割になりつつあるのではないか。

 

 

石垣市の上陸希望を無視

 

話は若干それるが、尖閣諸島周辺に石油資源が埋蔵されているのではないかとの騒ぎが持ち上がった1969年、沖縄県石垣市の石垣喜興市長(当時)が同諸島に上陸し、市の行政区域であることを明示する標柱を設置した。ところが年月がたつうちに標柱が劣化し、表面の字も正確に判読できなくなった。そこで、昨年6月に尖閣諸島の字あざ名「登野城とのしろ」を「登野城尖閣」と改めることを決めた市議会は、同12月に新しい字名を記した標柱の設置を求める決議を賛成多数で可決した。

 

中国は石垣市の一連の動きを常に注意深く監視しているのだろう。中国外務省の趙立堅副報道局長は「(石垣市の行動は)中国の領土主権への深刻な挑発で、非合法かつ無効だ」と強調し、「日本側に厳重に抗議した」と述べた。在日中国領事館員と称する人物からは、尖閣諸島の字名変更に抗議する電話が石垣市に再三入っている。

 

石垣市は標柱設置のため尖閣上陸の希望を日本政府に伝えているが、何の反応もないという。日本政府は一体何を恐れているのだろうか。

 

海警法に対抗する当面の法整備に手を着けず、さりとて長期的な対応も考えず、いたずらに時の経過を待つだけで、ひたすら米政府に日米安保条約の適用を頼み込む。日本国憲法の限界は誰の目にも明らかになってきた。

 

筆者:田久保忠衛(国基研副理事長)

 

 

国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第759回(2021年2月1日)を転載しています

 

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