このごろ海外メディアも「新型コロナで日本は違う」と気づいたようだが、その批判には首をかしげるものが多い。一時は「日本はロックダウンしてないから欧米よりひどいことになる」と批判していたが、それが外れると、たとえばBBCの記事はこう始まる。
日本で起きていることを理解したがっている人にとって不可解なのは、なぜ新型コロナウイルスの感染症COVID-19の検査がこれほど少ないのかだ。ドイツや韓国と比べたとき、日本の検査件数は0を1つ付け忘れているようにみえる。
このウィングフィールド=ヘイズ記者はドイツや韓国の検査件数を調べたのかもしれないが、普通の人は検査件数なんか知らない。大事なのは何人死んだかである。彼が「先進国」として日本が見習うよう求めているイギリスのコロナ死亡率は日本の100倍なのだ。
ところが、この記事にはそれがまったく出てこない。日本の検査体制は不十分かもしれないが、たくさん検査して3万人も死んでいるイギリスと、検査は少なくても死者が550人の日本のどっちがいいのか。答は明らかだろう。
要するに日本は、コロナで世界の超優等生なのだ。安倍政権の感染症対策には国民の80%が不満らしいが、結果がすべてである。だが日本政府は、それをPRできない。なぜこんなにうまく行っているのか、自分でもわからないからだ。その原因としてよくいわれるのは、次のような要因である:
- 自粛のおかげ? いやイギリスでは罰則つきの外出禁止令を出して警察が取り締まり、飲食店は閉店が命じられている。何も法的拘束力のない自粛で、それ以上の効果が出るはずがない。
- 緊急事態宣言のおかげ? いやピークアウトしたのは3月末だった。これが4月7日の緊急事態宣言の効果でないことは自明である。
- 日本人がきれい好きで役所のいうことをよく聞くから? それはあるかもしれないが、100倍の差は説明できない。
再生産数が小さい原因は自然免疫?
では一体、何が原因なのか。正直いって私にもわからないが、それを理解することが、こういう世界の誤解を解く鍵である。実際のデータでみると、専門家会議の資料でも、日本の再生産数は2月に2前後だったが、その後は下がり、3月にまた2前後に増えて4月から1を下回った。
これはピーク時には7を超えていたヨーロッパよりはるかに低く、日本人の再生産数(感染力)はもともと小さいと考えるしかない。その原因としては次の3種類が考えられる。
- 遺伝:日本人にはコロナ系ウイルスに対する抗体が多い
- 抗原:早くからコロナ系ウイルスが日本に入ってきた
- 抗体:BCG接種などによって免疫機能が強化された
これは高度に専門的な問題だが、世界中で多くの研究が行われている。大事なことは、おそらく広い意味で日本人の自然免疫が強かった可能性が大きいということだ。自然免疫というのは個々のウイルスに対する特異的な抗体ではなく、多くの病原体に対する非特異的な免疫機能である。
もし原因が自然免疫だとすれば、自粛も休業要請もクラスター対策も無意味である。これは今後に予想される第2波、第3波にそなえる上でも重要だが、政府も専門家会議もこの問題から逃げている。日本はコロナの超優等生なのだから、その原因を解明して世界に広めることが政府の使命である。
筆者:池田信夫
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言論プラットフォーム・アゴラの記事(2020年05月09日)を転載しています