日本のステージ業界の救世主となるか-。アニメや漫画、ゲームを原作とする2・5次元ミュージカルの右肩上がりの成長がめざましい。昨年の市場規模は226億円と前年比で5割増に近い伸びに。10~30代の若年層の集客に強く、現在テレビドラマなどで活躍する城田優や斎藤工ら有名俳優も多く輩出している。客層の高齢化に悩む業界内では「もはや2・5次元抜きに今後を考えられない」との声も。人口減で国内市場が頭打ちとなる将来を見据え、ライセンスのある「日本発祥のミュージカル」として、海外展開にも追い風が吹く。
市場規模の拡大
「チケットが用意された!」。徳島市に住む女性(24)は、携帯端末に届いたオンラインゲーム原案「刀剣乱舞」の舞台公演当選の連絡に喜ぶ。「今まで全然当たらなかった。倍率10倍以上の公演もあるという噂だったので、本当にうれしい」
2・5次元ミュージカルは、2次元の漫画やアニメ、ゲームの世界を生身の俳優が演じる3次元の舞台で再現したもの。歌やダンスがない、いわゆるストレートプレイも含まれる。原作の再現のため、徹底してビジュアル(外見や容姿)にこだわるのも特徴だ。
ぴあ総研によると、昨年のステージ市場規模(音楽コンサートや舞台芸術)は速報値で13・3%増の1909億円と過去最高を更新。このうち、2・5次元ミュージカルは226億円で前年比44・9%増と大幅に拡大した。平成14年に14作品11万人だった上演数と年間総動員数が、昨年は197作品、278万人となった。劇場不足で、今年7月からは神戸市で専用劇場の運用を開始している。
客層は10~30代、演目によっては40~50代も駆けつける。2・5次元ミュージカルを入り口に観劇に親しんでいくケースもあり、業界の高齢化に悩む関係者は「イロモノだと思っていたが、今では舞台・演劇文化の裾野を広げる大事なジャンルという認識」と話す。
偏見を乗り越えて
少年漫画原作「テニスの王子様」が上演された15年ごろから、2・5次元ミュージカルは注目されてきた。当初は主に若い女性が観客ということで「イケメンミュージカル」などと、揶揄(やゆ)するような報道もあった。しかし地道に公演を続けることで根強いファンを獲得、演出が洗練されていったことで「10年がたつころには、“ちゃんとした”舞台劇だと認められ始めた」(2・5次元ミュージカル協会の広報担当者)。
人気俳優の城田優や斎藤工、志尊淳らを輩出したこともあり、若手俳優の登竜門としてオーディションも盛況。「2・5次元に偏見がない精力的な若い演出家や俳優が集まり、より質の高い舞台を実現している」と胸を張る。
原作となった書籍のほか、公演映像のDVDやブルーレイの売り上げも好調なことから、今では他業界からも熱い視線が注がれる。
海外展開に期待膨らむ
海外でも人気を集めている。フランスでは昨年、「刀剣乱舞」が初めて上演され、喝采を浴びた。今年は少女漫画原作「美少女戦士セーラームーン」のアメリカツアーが行われ、チケットは売り切れが続出。国内の上演でも、作品によっては客席の1割程度が訪日外国人客(インバウンド)という。協会によると、海外展開の問い合わせは年々、増えている。
ここ十数年、日本のステージ業界には危機感があった。人口減で国内市場の縮小が避けられない上、海外に作品を輸出するにはブロードウェーなどの海外作品に勝てるオリジナル作品の開発が必要となっていたからだ。
2・5次元ミュージカルは国内にライセンスがあり、コピーが難しいため漫画やアニメ、ゲームなどと違って海賊版の心配もほぼない。「日本発祥、世界標準ミュージカル」として、日本の新たな文化コンテンツの盛り上がりに期待する声は大きい。
筆者:三宅令(産経新聞文化部)