Flying Cars 002

teTra aviation eVTOL

 

 

ベンチャー企業による「フライングカー」や「空飛ぶクルマ」などと称されるeVTOL(イーブイトール、電動垂直離着陸型航空機)の開発に大手の機械部品メーカーや中小の製造業者が大きな関心を寄せている。新型コロナウイルスの感染拡大で需要が落ち込んでいる航空機などに代わる部品の供給先として期待。内燃エンジンを使わないなど既存の航空機との違いはあるが、培ってきた技術力を生かし、新たな市場に挑もうとしている。

 

This image has an empty alt attribute; its file name is Flying-Cars-003-1024x576.jpg

 

eVTOLは、一般的な航空機やヘリコプターと違い、滑走路が不要で騒音も少ないのが特徴だ。

 

そのeVTOLをめぐっては、平成26年から開発を進めているベンチャー企業、スカイドライブ(東京都新宿区)の実験機が今年8月、愛知県豊田市での有人飛行試験に成功したほか、同じくベンチャーのeVTOLジャパン(東京都港区)も電動ヘリコプターの開発に乗り出している。

 

新型コロナの世界的な感染拡大で航空輸送需要は激減。大型機を中心に製造のキャンセルが相次ぐ。三菱重工業は子会社を通じた国産初のジェット旅客機スペースジェット(旧MRJ)の開発事業を事実上凍結した。こうした中、空飛ぶクルマは大手の機械部品メーカーや中小製造業にとって、魅力的な新たな市場と映る。

 

軸受け大手の日本精工(NSK)が開発した「可変ピッチ機構付きモーターハブ」は、飛行中でも羽根の角度が変えられる部品だ。横風を受けて機体のバランスが崩れても、モーターの回転数を維持したままで姿勢を安定させられる。

 

既存のヘリコプターには油圧式のものが使われているが、NSKのものは電動式。令和元年にNECが初飛行させた自社開発の空飛ぶクルマにも搭載された。モーターハブの開発に携わったパワートレイン技術開発部の郡司大輔副主務は「われわれの部品が活躍できる場がいっぱいありそう」と、自動車で培ったものづくりの技術が生かせるとの認識を示す。

 

スーパーレジン工業(東京都稲城市)は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの先端複合加工を得意とする中小企業。小惑星探査機「はやぶさ2」の機体と太陽電池パネルとの間の構造材の開発も手掛けた。航続距離を延ばすためには機体の軽量化が不可欠で、経営戦略室の大道達雄室長は「先端複合材料の加工ノウハウが生かせる」とみる。

 

自動車の世界では、ガソリンやディーゼルエンジンに代わって、電気自動車(EV)が主流になりつつある。従来のエンジンまわりの部品加工を手掛けてきた中小製造業にとっては業態転換を余儀なくされている。今度は航空機の世界でも同じことが起きるかもしれない。

 

航空会社による業界団体の国際航空運送協会(IATA)は既に、2050年までに航空機による二酸化炭素(CO2)排出量を05年比で半減させる方針を打ち出した。「いずれ航空機も電動化の流れに向かうだろうし、遅かれ早かれ部品供給網(サプライチェーン)の末端にまで影響が出るのは避けられない」と、航空機部品開発製造を手がける吉増製作所(東京都あきる野市)の吉増弾司社長は打ち明ける。

 

同社は先手を打つかたちで8月、eVTOLを開発する東大発ベンチャー企業のテトラ・アビエーション(東京都文京区)に5000万円を出資した。吉増社長は「変化を見据えながら、これまでに培った技術が生かせるような事業の方向性を確立させたい」と話す。

 

このほか、東京の多摩地区には航空機部品関連の町工場が集積している。金属加工の多摩冶金(武蔵村山市)は航空機エンジン部品の熱処理を手がける。東成エレクトロビーム(瑞穂町)のレーザー溶接は高精度の加工に強みを持つ。

 

経済産業省と国土交通省が平成30年に空飛ぶクルマの産業化に向けたロードマップ(行程表)を策定。実用化目標を令和5年に定め、機体の安全基準や操縦者の技能証明などに関する具体的な検討を進めている。スカイドライブではeVOTLを使ったタクシー「空飛ぶタクシー」を5年に大阪湾岸で展開する計画があり、7年の大阪・関西万博で会場への行き来に活用したい考え。

 

空飛ぶクルマは交通渋滞が激しい都市部の移動だけでなく、離島や山間部などでの自家用車に代わる代替移動手段や緊急時の救急搬送手段としても活用が期待されている。

 

航空輸送需要、そして航空機メーカーの受注の回復にはあと数年はかかるとみられる。早ければ2020年代半ばにも実現が見込まれる「空の移動革命」に向け、いわゆる「アフターコロナ」や「ウィズコロナ」への期待感も入り交じる中、空飛ぶクルマ関連のビジネスが静かに動き始めている。

 

筆者:松村信仁(産経新聞経済本部)

 

 

この記事の英文記事を読む

 

 

コメントを残す