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9月6日、世界的な影響力を持つ米国外交専門誌、フォーリン・アフェアーズは、中国共産党中央党校の元教授、蔡霞氏の長文の寄稿を掲載した。タイトルは「習近平の弱点 狂妄と偏執がいかにして中国の未来を脅かすのか」。「中央党校」は、中国共産党中央委員会直属の高級幹部養成機関。習国家主席は国家副主席時代に中央党校の校長を兼任していたこともあり、同校教授だった蔡氏は、内側から習主席の言動を直接観察できた一人である。
2020年6月、内輪の会合で習主席を厳しく批判した発言の録音がネット上で拡散されたことで蔡氏は国内外で注目を集め、同年8月、彼女は中央党校から党籍剝奪の厳しい処分を受けた。蔡氏は現在、アメリカに亡命中である。10月開催の共産党大会を目前に、米国の権威ある専門誌が蔡氏の「習近平批判」を掲載したことは当然、大いに注目すべきである。
蔡氏はまず、中央党校教授時代の見聞や自らの観察に基づいて、習主席の人となりや性格などについて分析している。彼女の結論はこうだ。自らの学歴や知的レベルに対するコンプレックスから発する「虚栄」と「偏執」が習主席の個人的特質であって、そこから生まれたのは、いかなる異なった意見にも耳を貸さない、いかなる反対意見も許さない、という習主席の政治的スタイルである。
蔡氏から見れば、習主席がこのような指導者だからこそ、習政権下のこの10年間、内政と外交上の失敗が重なって今の中国はまさに内憂外患のさなかにあり、共産党幹部と民衆の間で習主席に対する失望や反発が広がっている。
それでも習主席は、あらゆる権謀術数をろうして次の党大会を乗り越え、念願の続投を獲得する可能性は極めて高い、と蔡氏はいう。問題は、続投が決まる党大会後の5年間、「狂妄と偏執」の独裁者、習主席がいったい何をやり出すのか、である。それについて蔡氏は極めて悲観的な見方を示している。
曰(いわ)く、党大会の前に習主席は自らの続投を確保するため、党内各派閥と一定の妥協を行っている。だが、一旦続投が決まって政権の3期目に入ると、習主席はおそらく政治的野心を今まで以上に膨らませ、ますます独断専行してやりたい放題の独裁政治を行うであろう、と。
こうした中で、習近平路線下の中央集権的経済政策の推進や社会に対する統制の強化が極力はかられ、南シナ海の軍事化が進み、台湾併合も強行されることとなろう。
しかし、それでは党内と民衆の不満と反発はますます激しくなり、中国国内の情勢はより一層不安定となる。そして(政策の誤りによって)経済危機が発生し、社会的動乱が迫ってくる中で戦争発動の危険性も高まってくる。
このような悪循環に終止符を打つ可能性について蔡氏寄稿は最後に、習近平路線を終結させる唯一の道は「戦争」である、と指摘する。つまり、習主席が対台湾併合戦争を発動し、それが失敗に終われば、習政権は崩壊するだろう、と見ているのである。
以上が、蔡氏寄稿が予見した「動乱と戦争と崩壊の習政権3期目」である。
中共政権の内実をよく知る中央党校元教授の分析であるだけに、われわれにとっても大いに参考になる。いずれにしても、今年秋からの習政権3期目の5年間は、中国と周辺国にとっての「多事の秋(とき)」であることは間違いないし、中国国内における動乱の発生や対台湾併合戦争発動の危険性は非常に高いと思う。
われわれとしても、「習政権3期目」にどう対処するのか、今から真剣に考えなければならない。
筆者:石平
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2022年9月15日付産経新聞【石平のChina Watch】を転載しています