Virus Outbreak South Korea

South Korean President Moon Jae-in speaks during his New Year's address at the presidential Blue House in Seoul, South Korea, Monday, Jan. 11, 2021. Moon said it’ll offer COVID-19 vaccinations to all its people free of charge in phased steps. (Choi Jae-gu/Yonhap via AP)

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どういう風の吹き回しだろうか。

 

主権国家は別の主権国家に裁かれることはないとの原則に基づく国際法上の「主権免除」を逸脱し、日本政府に元慰安婦女性らへの賠償を命じた1月8日の韓国・ソウル中央地裁の判決に文在寅(ムン・ジェイン)大統領が否定的ともいえる反応を示した。

 

18日の年頭記者会見で文氏は「韓日間の懸案を外交的に解決しようと両国はさまざまな協議をしている。そんな中、慰安婦判決が出た。率直に言って、少し困惑している」と語った。

 

いわゆる徴用工訴訟でも「日本企業の資産が売却される事態は望ましくない」と述べるなど、これまで「司法判断を尊重する」との一点張りから踏み込んだ発言だった。もっともその予兆はあった。

 

慰安婦訴訟の判決当日に出された報道官談話では、「2015年12月の韓日政府間の慰安婦合意が両政府間の公式合意という点を想起する」と、文政権が反故(ほご)にしてきたはずの日韓合意への言及があったのだ。

 

さらに1月13日に予定されていた同種の別件訴訟の判決期日が突然延期されたことも不可思議だ。文政権は「何か」を避けたかったとしか思えない。

 

就任5年目にして初の対日接近ともいえる動きだが、文氏の真意はどこにあるのだろうか。両国の関係改善が最終目的なら歓迎したい。しかし、韓国で報道されているように今夏の東京五輪を南北融和、米朝融和の「格好の舞台」としたいための日本接近ではないか、との観測もある。

 

現在、日本政府は慰安婦訴訟を国際司法裁判所(ICJ)に持ち込むことを検討中だ。韓国は応じないとみられているが、武藤正敏元駐韓大使は「日本はすぐにあきらめるのではなく、ICJこそ解決の場という姿勢を取り続け、国際社会に不当な判断をアピールすべきだ」と語る。

 

ICJは12年、イタリア最高裁が第二次大戦中に強制労働させられたイタリア人への賠償をドイツ政府に命じた判断を「主権免除」を理由に否定した。こうした裁判例にかかわらず、韓国が慰安婦訴訟の判決に自信を持つなら堂々と応訴してきていいはずだ。

 

人権や正義を掲げる文政権だが、米欧も民主国家としての異質さのようなものに気づき始めているようだ。それは、北朝鮮がからむ人権問題には沈黙するなど「都合のいい人権(日本関係)と悪い人権(北朝鮮関係)の基準が存在する」(武藤氏)ことだ。

 

韓国では昨年末、北朝鮮を非難するビラの韓国内での散布を禁止する「対北ビラ禁止法」が成立した。

 

表現の自由をうたった韓国の憲法や市民的・政治的権利に関する国際規約にも違反する-と指摘される対北ビラ法には、実は国内以上に米英の議会や国連から激しい反発があがった。

 

米政策研究機関「戦略国際問題研究所」のビクター・チャ韓国部長は韓国が対北ビラ法によって「民主主義の多国間連合体から疎外される可能性」を指摘。米議会の「トム・ラントス人権委員会」は同法に関する聴聞会を開く予定だ。

 

慰安婦訴訟と対北ビラ法は別の案件だが、両件には異質さが通底する。おりしも、新駐米大使には韓国大使を務めた冨田浩司氏が着任する。日本は米国はじめ世界にこの異質さを問い掛けていくべきだろう。

 

筆者:長戸雅子(産経新聞論説委員)

 

 

2021年2月2日付産経新聞【一筆多論】を転載しています

 

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