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【アトリエ談義】(8)武蔵野の思い出と私の宝物

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今回は、私のアトリエを紹介しましょう。

 

皆さんは “アトリエ”というと、北窓を持つ、天井の高い空間を思い浮かべるかもしれません。しかし、そこで仕事をする人も様々なように、アトリエも色々で、有名画家と貧乏画家でも違うし、良いアトリエなのに散らかしっぱなしのルーズな画家もいる。総じて日本画家のアトリエはきちんと整頓され、油絵画家のアトリエは床が絵具だらけで汚れているイメージが強いようです。

 

ところで、私のアトリエも紹介しましょう。建てた当時は広々としていたというのに、あれよあれよという間に様々なものによって埋め尽くされています。子供の頃からなんでも拾ってきては身の回りに置くという私の癖が今も持続しているようで、我ながら呆れ返っているというのが実情です。

 

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私は画家ですから、モチーフになる壺や、ドライフラワーがあるのは当然ですが、このほか壁には東南アジアの仮面や日本のお面が掛かっており、本棚の上には、弟が世界一周の旅で持ち帰ったお土産のワニの剥製がこちらを睨んでいます。また、そんな私の趣味を知った友人からもらったサメの歯がころがっていたり、玄関には大きな牛の頭蓋骨が睨みをきかしています。これは泥棒よけになっているかもしれませんけど・・・。

 

しかし、そんなものだけではありません。浮世絵を含めて、日本の木版のルーツを知りたいという思いから、寺院が出す、仏像が刷られた「お札」や、

 

お札

 

地方のお祭りやお盆で吊るしたり川に流したりする「行灯絵(あんどんえ)」。

 

行灯絵

 

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大津で旅人に売った土産用の「大津絵」、

 

大津絵

 

また、豊年を願って奉納した「絵馬」なども収集してきました。

 

絵馬

 

もちろん、国芳一門の浮世絵はメインで、コレクションの中でも重要なものです。これらは一部を除いて、いずれも蚤の市や古書店で安く手に入れたもので、貧乏画家の私にとっては身分相応のコレクションと言えるでしょう。

 

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このような絵画や版画は全て庶民の暮らしの中から生まれた日本独特のもので、その中の「浮世絵」だけが高く評価されて来ましたが、本当は今お話しした様々な生活美術を総合して見ることによって、より当時の庶民の暮らしがわかるのが面白いのです。

 

また、上の棚には日本画の箱が並んでいます。そのほとんどが無名画家で、横山大観の様な大家は一人もいません。幸いなことに、江戸、明治、大正頃の無名画家の作品は安価です。時にはその中にキラリと光る良い作品が発見できる、その醍醐味は得難いものです。

 

さて最後に、アトリエの両壁を我が物顔で陣取っているのが、本棚です。並んでいる本の内容は美術、文学、音楽が中心ですが、その中で一番大切にしているのが武蔵野関係の書物と資料でしょう。中でも国木田独歩の「武蔵野」は、私のバイブルと言ってもよく、その美しい文体は見事に武蔵野の情景を活写しており、短編ですが珠玉の作品として、永遠に輝き続けるに違いありません。

 

独歩の武蔵野表紙

 

筆者:悳俊彦(いさを・としひこ、洋画家・浮世絵研究家)

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この記事の英文記事を読む

 

ラスト・ウキヨエ 浮世絵を継ぐ者たち-悳俊彦コレクション
場所:太田記念美術館
開催期間:2019年11月2日(土)~12月22日(日)
(前期)11月2日(土)~24日(日)
(後期)11月29日(金)~12月22日(日)
※前後期で全点展示替え

【アトリエ談義】
第1回:歌川国芳:知っておかねばならない浮世絵師
第2回:国芳の風景画と武者絵が高く評価される理由
第3回:浮世絵師・月岡芳年:国芳一門の出世頭
第4回:鳥居清長の絵馬:掘り出し物との出合い
第5回:国芳の描く元気な女達
第6回:江戸のユーモア真骨頂“国芳の戯画”
第7回:歌川国芳の弟子たちを通してみる国芳の遺産
第8回:武蔵野の思い出と私の宝物

 

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