【永遠の北斎】すみだ北斎美術館の「大江戸歳事記」展をご紹介

 

すみだ北斎美術館学芸員、竹村誠です。シリーズ【永遠の北斎】の場をお借りして、今回は東京都墨田区のすみだ北斎美術館で、現在開催中の北斎やその門人の作品が展示されている「大江戸歳事記」展をご紹介させていただきます。

 

日本では春夏秋冬の季節感を大事にし、その季節を感じるような行事が行われていました。現在の日本の四季は1・2・3月が冬、4・5・6月が春、7・8・9月が夏、10・11・12月が秋ですが、江戸時代は異なっていて、1・2・3月が春、4・5・6月が夏、7・8・9月が秋、10・11・12月が冬でした。

 

現代の私たちは、毎年決まった時期に行われる様々なイベントを通して、1年の生活のリズムを感じとっていますが、北斎が生きた江戸時代の人々も同様に年を重ねていました。本展では、そのような年中行事に焦点を当て、北斎や門人たちが描いた当時の風俗を紹介します。それぞれの行事は、1年の平穏無事や子どもの成長など、種々の祈りを込めて行われました。いろいろな行事に加え、季節ごとに登場する行商などの風俗を描いた作品も展示し、江戸の四季をご紹介します。

 

 

「春」の展示作品

 

江戸時代、江戸の市中では季節ごとに変わる物売りや大道芸人が各家々を訪れました。万歳もそのうちの大道芸人の1つで、正月になると家々を訪れました。

 

本作品の左が太夫、右が才蔵と呼ばれる2人1組の芸人です。各家の門口などで祝いの歌をうたって、祝儀をもらいました。その才蔵は、歌の途中で滑稽なことなどをいって戯れたりするので、家々では楽しみにしていました。この才蔵は、年末の日本橋南詰(中央区日本橋)に集まっていて、太夫に雇われ、毎年その場でコンビを組みます。これを才蔵市といいました。

 

本作品は、新年を寿ぐ壮年期の北斎の優品です。門松を長く途中まで描いて画面に広がりをもたせているのも、北斎による技術的な表現です。

 

葛飾北斎「万歳図」紙本着色一幅
寛政(1789-1801)末~享和(1801-04)初年
すみだ北斎美術館所蔵

 

 

「夏」の展示作品

 

5月5日は端午の節句です。男子のいる家では強い者の象徴である鍾馗や、家紋などを描いた幟【のぼり】や鯉幟を屋外にたてました。室内には兜や小さな幟を飾り、室内の幟は座敷幟といいます。前日の4日からは軒先に菖蒲を挿します。また、菖蒲で作った刀を菖蒲刀といい、飾ったり、子どもたちが腰に差して遊んだりしました。菖蒲は、武を重んじる意味の「尚武」につながるので、男子の節句の縁起物とされます。

 

本作品は、その鍾馗を北斎が数え87歳の時に描いた作品です。本図の鍾馗は、朱で描かれていますが、流行病の疱瘡除【ほうそうよけ】の祈りを込めて制作されたものです。朱だけでなく、目や口、髪などに墨が用いられており、細かな工夫がされています。

 

葛飾北斎「朱描鍾馗図」 絹本着色一幅 弘化3年(1846)
すみだ北斎美術館所蔵

 

 

「秋」の展示作品

 

7月7日は七夕で、牽牛【けんぎゅう】と織女【しょくじょ】の星が、1年に1度天の川を渡って会う日とされています。中国の伝説では、機織りの得意な織女と牛飼いの牽牛を、父の天帝が結婚させます。しかし、織女が機織りをしなくなってしまったので、天帝が2人を天の川の東西に分けて住まわせ、1年に1度だけ会うことを許したといいます。これに、女子が手芸の上達を織女星に祈る風習が結びつきました。江戸では前日より竹に短冊などを括りつけて屋上にたてました。

 

葛飾北斎『画本狂歌 山満多山』中 版本
享和4年(1804)
すみだ北斎美術館所蔵

 

 

「冬」の展示作品

 

歌舞伎芝居の世界では、江戸三座(森田座、市村座、中村座)をはじめ、京や大坂の各座で、11月に役者の入れ替えがあり、11月から1年間その座の専属の役者が決まります。そのお披露目の芝居狂言を顔見世狂言といいました。

 

本作品は江戸の名所を「新板浮絵」の表題をつけて描いたシリーズの1図で、13図が確認されています。本図は11月の顔見世狂言の雑踏を描いたものです。芝居小屋の表には、出演する役者名と紋が描かれた看板が建てられていますが、この紋看板は顔見世狂言の時だけ出されたものです。

 

葛飾北斎 新板浮絵三芝居顔見世大入之図 錦絵 文化(1804-18)中期頃
すみだ北斎美術館所蔵

 

このほかにも北斎や門人たちによる作品を展示中です。150年以上前の江戸の1年を身近に感じ、先人の生活に思いをはせていただければ幸いです。どうぞ、江戸の歳時記をお楽しみください。

 

●動画【ニコニコ美術館】
5月1日に臨時休館中に生放送されました【ニコニコ美術館】動画をご紹介いたします。
「大江戸歳事記」展、展示作品の解説もございます。(日本語のみ)
https://live2.nicovideo.jp/watch/lv325518418

 

●すみだ北斎美術館 展覧会情報
最新の開館情報は、すみだ北斎美術館ホームページにてご確認ください。
◎展覧会タイトル 大江戸歳事記
◎会期  2020年6月30日(火) ~8月30日(日)
◎前期 6月30日(火)~8月2日(日)
◎後期 8月4日(火)~8月30日(日) ※前後期で一部展示替えあり
◎休館日 毎週月曜日 ※開館:8月10日(月祝) 休館:8月11日(火)
◎開館時 9:30~17:30(入館は17:00まで)
◎主催 墨田区・すみだ北斎美術館
◎住所 〒130-0014 東京都墨田区亀沢2-7-2 TEL 03-6658-8936
◎企画展公式ホームページ: https://hokusai-museum.jp/saijiki/
◎アクセス
都営地下鉄大江戸線「両国駅」A3出口より徒歩5分
JR総武線「両国駅」東口より徒歩9分
JR総武線「錦糸町駅」北口より墨田区内循環バスで5分

 

この記事の英文記事を読む

 

【永遠の北斎】シリーズ
序:世界の人物100人に入った北斎の物語
1:『神奈川沖浪裏(グレート・ウェーブ)』の尽きせぬ魅力
2:北斎の優れたデザイン感覚
3:すみだ北斎美術館の「大江戸歳事記」展をご紹介

 

 

Takemura Makoto

Author:

Takemura Makoto is a Curator at the The Sumida Hokusai Museum in Tokyo, Japan.

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