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アカデミー監督も絶賛 日本発人形SF映画は危険な世界

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「JUNK HEAD(ジャンク・ヘッド)」は、退廃的な雰囲気が漂う本格SFを人形で表現する独特の日本映画。海外の映画祭などでは4年前から話題になっていたが、日本の映画館でも上映が始まった。本業は内装業の堀貴秀(ほり・たかひで)さん(49)が、8年をかけて一人でコツコツと完成させた。堀監督に話を聞いた。

 

堀貴秀さん

 

世界が驚いた

 

人工生命体「マリガン」によって地下が占領された地球。遺伝子操作で生殖能力を失った人類はマリガンの旺盛な繁殖力に目を付け、地下に調査員を送り込むが、過酷な運命が彼を待ち構えていた。地下世界は凶暴な異形の生物が闊歩(かっぽ)する危険な世界だった。

 

「JUNK HEAD」は、そんな物語だ。暗く退廃的で刺激の強い描写も多いが、これを輪郭が丸い、かわいらしい人形が実際の6分の1サイズのミニチュアセットの中で演じる。するとユーモラスな味わいが加味され、ほかにはない雰囲気を生み出すのだ。

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2017年にはカナダ・ファンタジア国際映画祭で最優秀長編アニメーション賞を、米ファンタスティック映画祭では新人監督賞を獲得した。翌18年にかけて多数の海外の映画祭で高い評価を得た。

 

「JUNK HEAD」は「ストップモーション・アニメ」と呼ばれる手法で撮られた。通常のアニメは絵だが、こちらは写真を1秒間に24枚という高速で映し出し、動いているように見せる。

 

上映時間は、1時間39分。使われた静止画は約14万枚にのぼるが、堀監督は一人で撮影した。そればかりか照明、編集、人形作りに至るまで、ほぼ一人で行った。

 

The first-time filmmaker Takahide Hori

 

そうだ、映画、作ろう

 

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堀監督は大分県出身。高校卒業後に上京、絵画や彫刻を手がける芸術家を目指した。20代はアルバイトで食いつないだ。30歳から内装業を営み、作品を作り続けた。だが、「突き抜けた作品はできなかった」。「このままでは、だめだ。何かほかのことをしなくては」。40歳を目前に突然、映画を作り始めた。

 

「映画は個人で作れるものじゃない」。それまで、映画を作ることなど考えたこともなかった。

 

だが、「新海(しんかい)さんが一人で作ったと耳にしたんです」。大ヒットアニメ映画「君の名は。」などの監督、新海誠さんのことだ。新海監督は「ほしのこえ」という短編を、パソコンを使って一人で作っていた。

 

「映画って個人でも作れるのか。だったら、自分も作ってみよう」と。思い立った堀監督。映像に関する知識はまるでなかったが、手元にあった操り人形を見てひらめいた。カメラで撮影した人形の写真をパラパラ漫画の要領で動かせば、動画になるのではないか。

 

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それがストップモーション・アニメだという認識は当時なかった。だが、堀監督はインターネットで情報を集め、平成21年の暮れから人形を使った映画を作り始めたのだ。

 

内装業の工場が“撮影スタジオ”になった。内装の仕事は月に1週間程度に減らし、残る時間の全てを映画作りに当てた。一人で黙々と作業した。

 

後に結婚する女性とすでに暮らしていたが、だまって見守ってくれた。「よく耐えてくれたなあ」。感謝してもしきれない。

 

 

狂った輝き

 

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21年の暮れから作り始めた映画がようやく完成したのは25年10月。4年がかりで30分の短編「JUNK HEAD 1」ができた。「なぜ完成できたのか、自分でも分からない」

 

これをユーチューブに投稿したところ、世界の映画人が注目した。「狂った輝きを放ち、不滅の創造力が宿っている」。アカデミー賞監督のギレルモ・デル・トロさんが、ツイッターで絶賛した。

 

だが、堀監督にとっては、まだ「1」。「10」で完結する構想だ。「2」の製作資金をインターネットで調達しようとしたが、失敗した。500万円ほどが集まったが、必要だったのは2千万円だ。

 

実は、米国大使館から連絡が来るなど、ユーチューブを見た米ハリウッドからラブコールが相次いでいた。だが、「英語が話せない」とすべて無視した。

 

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万事休すだが、そのとき幸いにも出資したいという国内の企業が現れた。これで27年、堀監督は長編の製作に着手。短編の「1」を冒頭に当て、残りが完成したのが29年。「1」の着手から8年が過ぎていた。

 

「苦しかった。だから、発表して認められたときは、生きていてよかったと思いました。きっと作り続ける限り可能性はあります。そう考えれば、とりあえず生きていけそう」

 

短編10本で完結という構想は、長編3本で完結に変わった。内装業は続けている。工事を依頼された映画館で、「JUNK HEAD」のポスターを見つけたこともあった。2作目の準備はできている。人形たちが地下世界でさらなる冒険を繰り広げられるかは、日本での評判にかかっている。

 

筆者:石井健(産経新聞文化部)

 

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「JUNK HEAD」は、東京・アップリンク渋谷、大阪・イオンシネマシアタス心斎橋などで公開中。1時間39分。

 

 

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