北朝鮮の第2の首領になった金与正氏

 

北朝鮮は金正恩独裁政権から金正恩・与正兄妹独裁政権へ移行した。金正恩労働党委員長の健康状態がかなり悪いことを意味する。6月8日、本コラムでは、与正氏が4日に談話を出して、脱北者が北朝鮮へ風船ビラを送ったことを口汚く罵り、それを黙認した韓国政府に南北連絡事務所の閉鎖や南北軍事合意破棄もあり得ると脅したことを、権力委譲の兆候と指摘した。与正氏は13日と17日にも談話を出して、韓国の文在寅政権への罵倒を続けた。特に13日談話の次の部分は、北朝鮮専門家を驚かせた。

 

 

南北連絡事務所爆破を「指示」

 

「私は、委員長同志と党と国家から付与された私の権限を行使して、対敵事業関連部署に次の段階の行動を決行することを指示した。遠からず、無用な北南共同連絡事務所が跡形もなく崩れる悲惨な光景を見ることになるであろう」

 

「指示した」という動詞は、北朝鮮の唯一指導体制の下では首領以外は使うことが許されない。首領以外の幹部は首領の指示を実行することだけを求められ、指示を出すことは禁じられている。これは1974年に金正日総書記が制定し、2013年に金正恩氏が改訂した「党の唯一領導体制確立の10大原則」という秘密文書に明記されている。

 

「指示」という言葉が談話で使われた意味は、首領の指示と同じように与正氏の指示に無条件で従わなければ、殺されるということだ。指示が出た3日後、南北連絡事務所爆破が実行され、全国で反文在寅、反脱北者の大規模集会が開かれている。

 

金正恩氏が妹に「指示」という言葉の使用を許したのは、自分の健康に自信がないからだ。金正恩氏の息子は11歳だ。金正恩氏は、息子が成人するまで自分が独裁者として君臨できないと考えて、妹を中継ぎに立てた。その息子は本妻の子ではないので、与正氏が育てているという内部情報がある。

 

 

中国が北朝鮮石炭の密輸出容認

 

金正恩氏と与正氏は、現在の危機は文在寅氏が約束通りの経済支援をしないからだと昨年末に立腹し、4月の総選挙後に文在寅をたたくとを決めていたというが、いくら文在寅たたきや軍事挑発をしても、外貨は入らない。ただ、6月第2週ごろ、中国が極秘に石炭の密輸出を見逃すと伝えてきて、北朝鮮の貨物船が中国の大連、青島、丹東に石炭を運び込んでいる。北朝鮮内では各機関が石炭密輸の権限をめぐって争っている。明確な国連制裁違反を犯してでも助けないと金正恩政権は倒れるかもしれないと習近平中国国家主席が判断したようだ。だからこそ、われわれは中国の制裁破りを徹底的に見張って止めなければならない。

 

経済制裁と中国・武漢発のコロナウィルス蔓延(まんえん)で北朝鮮の体制危機は深刻化し、急浮上した与正氏は文在寅政権と一切の関係を絶つことを「指示」し、内部の不満を抑えようとしている。与正氏は南北連絡事務所爆破に続く軍事挑発を軍に検討させている。

 

筆者:西岡力(国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授)

 

 

国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第693回・特別版(2020年6月22日)を転載しています

 

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Tsutomu Nishioka

Author:

Tsutomu Nishioka is a senior fellow and a planning committee member at the Japan Institute for National Fundamentals and a visiting professor at Reitaku University. He covers South and North Korea.

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