「ラスト・ウキヨエ 浮世絵を継ぐ者たち 悳俊彦コレクション」という展覧会が、11月2日から12月22日まで、東京の原宿にある「太田記念美術館」で開催されました。今回はその展覧会に出品した作品の中から数点をご紹介することに致します。
悳コレクションは、国芳とその弟子たちの作品が中心になっていますが、それに加えて国芳の兄弟子である三代豊国や、その弟子の他に、また違った流派の絵師たちによる明治期の作品も含まれています。
そして彼らの作品は、江戸期に活躍した浮世絵師とは一味違った、新生明治の息吹の感じられる作風が大変魅力的です。今回開催された展覧会では、私の明治期のコレクションの初めてのお披露目となりました。
出品されている作品は、約200点。36名の絵師から成る大規模なものとなりました。その中から、どのように皆さんにどのように紹介したら良いのか考えたのですが、まずは最も多く出品されている「月岡月耕」「二代歌川芳宗」を中心に、興味深い作品を加えてご覧頂くことにしようと思います。
はじめに「尾形月耕」の「花美人名所合」から「亀戸臥龍梅(かめいどがりゅうばい)」をご覧頂きましょう。
見どころは、題名の“臥龍梅”よりも生垣に積もる雪と二人の女性の見事な取り合わせの妙にありましょう。
「亀戸臥龍梅(かめいどがりゅうばい)」
もう一組、同じシリーズから「東台の桜花」。“東台”とは、今の上野公園です。あの激しい戦争をくぐり抜けて、今もこの絵の雰囲気が残っているのが私は嬉しく、美術館帰りに立ち寄っています。
「東台の桜花」
次は「月耕随筆」から「井の頭弁天の真景」です。ここも私がよく写生に行く井の頭公園内にあり、お堂に通じる石橋は、おそらく昔のままと思います。また、お堂の守り神である蛇も描かれているなど、月耕は芸の細かいところを見せています。
「井の頭弁天の真景」
次にご覧いただく「二代歌川芳宗」は、今までほとんど紹介されたことのない絵師ですが、私が以前から注目していた絵師の一人です。今回出品されている「芳宗随筆」全5点は、芳宗自身が版元となって出版された大大版の作品で、この展覧会のハイライトと云えるでしょう。
皆さんにはこのシリーズから「菊おさめ」をご覧頂きます。朝露の中の浅草寺。「菊おさめ」の女性を朝露が包んでいる芳宗の代表作と言って良い傑作です。
「菊おさめ」
最後に、これまでご紹介してきた絵師よりも、尚知られていない絵師の素晴らしい作品を皆さんにもぜひご覧頂きたいと思います。
デビューの機会がなく埋もれた絵師。若くして亡くなったため作品数の少ない絵師などは、研究家や愛好家が目を止めてあげなくては、永遠に埋もれたままになってしまうでしょう。そういった絵師を発掘することは、研究家やコレクターの義務でもあり、喜びでもあるのです。
竹内柳蛙「内窓美人図」
揚斎延一「初午」
尾形月山「平等院夕暮」
筆者:悳俊彦(洋画家・浮世絵研究家)
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「ラスト・ウキヨエ 浮世絵を継ぐ者たち」展、太田記念美術館で12月22日まで
【アトリエ談義】シリーズ
第1回:歌川国芳:知っておかねばならない浮世絵師
第2回:国芳の風景画と武者絵が高く評価される理由
第3回:浮世絵師・月岡芳年:国芳一門の出世頭
第4回:鳥居清長の絵馬:掘り出し物との出合い
第5回:国芳の描く元気な女達
第6回:江戸のユーモア真骨頂“国芳の戯画”
第7回:歌川国芳の弟子たちを通してみる国芳の遺産
第8回:武蔵野の思い出と私の宝物
第9回:浮世絵の継承者たち