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休暇先「集団で働く」 新時代の潮流

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IT技術を活用して出勤せずに休暇先から働く「ワーケーション」の普及が新たな展開を迎えている。ワーケーションは新型コロナウイルス感染拡大に伴う出社抑制の流れに乗って注目を集め、企業として従業員による活用を後押しする動きも目立つ。一方、企業が主導して集団での導入を進めすぎれば、ワーケーション先での「密」状態を生みかねず、感染再拡大の中では慎重論も強い。ただ、集団でのワーケーションには組織の一体感を高めるなどの効果も見込まれるだけに、長期的なニーズの増加も期待されている。

 

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■「密」状態には懸念も生産性向上

 

「ワーケーションを経験した社員の間では、『経費を使うからには生産性を上げなければ』という責任感が生まれ、仕事の効率が良くなった」

 

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こう指摘するのは東京都港区のベンチャー企業の男性社長。プリンスホテルが長野県軽井沢町で提供する戸建てコテージを使ったワーケーション宿泊プランを会社として使った感想だ。

 

ワーケーションは仕事(ワーク)と休暇(バケーション)を組み合わせた造語。本来は多様な働き方を実現するための一手段だったが、出社を避けられることから職場での密集回避策として注目が高まった。

 

しかし実際は社員が上司からワーケーションを勧められても、同僚が実践していなければ始めにくいという心理が働く。一方、会社側が決めた行程で社員がワーケーションの現場に出向く仕組みにすれば、活用へのハードルは下がる。

 

プリンスホテルの担当者は、仕事をしに行くために自分で経費を負担することを躊躇(ちゅうちょ)する人も少なくないとして、「ワーケーションを普及、定着させるためには、企業の動きが重要になる」と語る。

 

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幅広い業種で利用

 

白い砂浜と水色の海が広がる和歌山県白浜町の白良浜(しららはま)。内陸へ車で約5分走ると、共用オフィスや会議室などを備えたワーケーション施設「WORK×action Site(ワーケーションサイト) 南紀白浜」にたどり着く。

 

令和元年5月にこの施設を開業した三菱地所の開発責任者、玉木慶介氏は「企業がイノベーションを起こすのをサポートできる施設がテーマだ」と話す。

 

開業以来、金融機関やIT企業などの幅広い業種で利用が広がっているという。大手企業の複数の支店から集められた若手社員らが会社の10年先の将来を考える研修型のグループ参加もあれば、役員らが秘匿性の高い議論の場に使う場合もあるという。

 

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東京に拠点を置くあるIT企業は同年7~8月の1カ月強、この施設を借りた。計40人の社員らが10人程度のグループに分かれ、1週間交代で滞在。最初に参加したグループは現地に到着した初日の午前中から仕事を始め、数時間働いた後、昼食時には近くの浜辺でバーベキューをして過ごした。午後からは施設に戻り、再び業務に集中するといった具合だ。

 

玉木氏自身も開業当時、開発チームの社員ら約10人で2日間、この施設を利用した。集中して議論したり、リラックスしながら会話したりするうちに開発チームのメンバーの強みと弱みが分かるようになったほか、上層部への報告を念頭に、成果を出さなければならないという責任感も生まれ、「生産性が高くなった」という。

 

 

勤務把握しきれず

 

他方、新型コロナの感染拡大はいまだ収束の兆しは見えず、年明けには緊急事態宣言が再び発令される事態となった。こうした中での会社主導の集団型ワーケーションは感染拡大のリスクと隣り合わせだ。

 

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三菱地所が運営するワーケーション施設では施設内の消毒や換気、アクリル板の設置、抗ウイルス剤の噴霧などで感染対策を講じている。しかしコロナ禍が猛威を振るう状況では、大人数で県境をまたぐ移動を控える意識も強い。玉木氏は「このご時世で積極的に施設に来てくださいと呼びかけられる環境ではないと思う」と話す。

 

また、新型コロナの感染拡大が収束したとしても、ワーケーションの導入を模索する日本企業の中には、労務管理や労災の課題を指摘する声もある。コロナ禍を受けて急速に普及した在宅勤務と同様に、社員の勤務状況を把握しきれない面があるためだ。

 

 

一体感の維持課題

 

社員がオフィスに集まって働くことには、対面でのコミュニケーションを密にして、組織としての一体感を生み出せるという利点がある。こうした一体感は日本企業を欧米企業と比較した場合の強みのひとつである「現場で働く社員の強さ」を引き出す要素だ。

 

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その一方、日本では個人のライフスタイルにあった働き方が認められにくいとの問題意識から、働き方の多様化の重要性も指摘されてきた。しかし在宅勤務などが浸透してオフィスや宴席などで社員同士が顔を突き合わせる時間が減り、組織の一体化の維持をどう図るかという問題に直面している企業もあるという。

 

ワーケーションは生産性向上や働き方の多様化だけでなく、従業員の有給休暇の取得促進や、企業の人材流出の抑止などの効果も期待される。働く人を受け入れる地域には平日の旅行需要の取り込みや企業との関係構築などの利点もある。

 

企業主導で活用するワーケーションには現状では感染拡大抑制という課題はあるものの、働き方改革や旅行需要の平準化などの観点から普及に向けた取り組みは今後も続きそうだ。

 

 

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≪ぷらすアルファ≫

 

観光庁も苦悩 支援事業は停滞

 

政府はワーケーションや、出張先で滞在期間を延長して余暇を楽しむ「ブレジャー」(ビジネスとレジャーを組み合わせた造語)を「新たな旅のスタイル」と位置づけ、普及を図る。特定の時期と場所に集中する日本の旅行需要を分散させ、休暇取得の促進などを後押しする狙いだ。ところが、民間企業がワーケーションを試す国の支援事業が停滞するなど、再び勢いを増す新型コロナウイルス禍の影響が出ている。政府自身が国民に移動自粛を呼びかける中、観光庁はどのように施策を打ち出すかに頭を悩ませる。

 

昨年10月、観光庁の課長級を含む5人程度の職員らが北海道洞爺湖町で、1泊2日の日程でワーケーションを実践した。滞在先で業務をこなしつつ、地元関係者との意見交換や洞爺湖でのカヌー体験を視察。自宅や職場以外の環境で働く利点や普及に向けた課題を確認した。

 

政府は既に制度が確立している企業の取り組みも参考に普及拡大を図る。

 

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日本航空は令和元年5月、出張と休暇の日程を合わせるブレジャーに関する社内制度を導入した。平成29年7月にはワーケーションを制度化し、1週間程度の休暇中に1日だけ急な会議が入った場合、休暇日程を変えずに済む環境を整え長期休暇の取得を促した。観光庁はこうした事例を参考に、今年3月末までに企業向けのパンフレットを作成し、発表する予定だ。

 

ただ、こうした観光庁の取り組みも新型コロナの影響を受けている。昨年11月から今年1月までに全国の民間企業十数社がワーケーションを試行するモデル事業は思うように進んでおらず、これまでの開催実績は昨年11月に北海道函館市と熊本県阿蘇市で社員ら計約15人が参加したANAホールディングスの1社のみという。

 

観光庁の担当者は「今は移動自粛を政府からお願いしているところ。施策の打ち出し方も庁内で調整している…」と吐露。その一方で「観光促進や新たな働き方など、世の中が変わってきているので着々と進めたい」と話している。

 

筆者:岡田美月(産経新聞経済本部)

 

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2021年1月28日付産経新聞【経済#アナトミア(解剖学)】を転載しています
※「アナトミア」はラテン語で解剖学の意味。

 

 

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