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日本美術「里帰り」手伝う

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国際的オークションハウス、クリスティーズに入社以来、私は日本美術を鑑定・査定するスペシャリストとして、主にニューヨークでオークションを担当してきた。3年前に日本法人の代表となり17年ぶりに帰国したが、改めて美術品の流動性や後世への継承について考える機会が多くなった。というのも近年、自身の帰国とシンクロするように、海外にある日本美術の〝里帰り〟に相次いで携わることになったためだ。

 

実はクリスティーズはオークションだけでなく、売り手と買い手の間を取り持って話を進める「プライベートセール」も手掛けており、私も近年、後者を専門としてきた。オークションは買い手を選べないが、相対取引なら、例えば海外にある襖絵(ふすまえ)をもともとあった寺に戻すといった仲介もしやすくなる。実際、縁あって私は、明治期の廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)で売り払われ散逸した京都・龍安寺(りょうあんじ)の襖絵(27面現存)のうち、「群仙図(ぐんせんず)・琴棋書画図(きんきしょがず)」と「芭蕉図(ばしょうず)」の計13面を〝本来の場所〟に戻すお手伝いをさせていただいた。

 

特に「群仙図―」に関しては、時を経て2度もオークションにかけるという稀有(けう)な経験をした。何しろ米メトロポリタン美術館なども所蔵する龍安寺の襖絵。このような歴史的寺宝が市場に出ること自体が稀(まれ)なうえに、2度目のオークションで同寺の購入が決まったときは、やはり美術品は収まるべきところに収まるという感慨を強くした。さらに、かつて英国の個人所有だった「芭蕉図」をプライベートセールで2018年、実に123年ぶりに同寺に戻すことができたのも、「縁」としか言いようがない。

 

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こうした日本美術の里帰りは一般的に歓迎されるが、私たちの仕事は当然、美術品の流出・流入両方に関わる。日本の古美術を海外に出すことはネガティブに捉えられがちだ(国宝・重要文化財などは原則、海外輸出禁止)。しかし海外の名だたる美術館が収蔵しているからこそ、世界の人々と日本文化との接点は多くなり、興味を持って日本を訪れる人も増える。美術品が「文化外交官」のような役割を果たしているのも事実だ。

 

江戸中期の絵師、伊藤若冲(じゃくちゅう)を筆頭に「奇想」の作品で知られる米国のエツコ&ジョー・プライス夫妻のコレクションは、展覧会を通じてごらんになった方も多いだろう。そのプライス・コレクションのうち190件が2年前、里帰りして東京・出光美術館の収蔵となったが、そのお手伝いもさせていただいた。

 

拙著『若冲のひみつ』で詳述したが、既にコレクションの半分をロサンゼルス郡立美術館へ寄贈すると決めていた夫妻は、もう半分を日本の美術館など公的なところに売却したいとの意向だった。日米間で研究者が行き来し、文化交流に役立つことにこそ、私たちが長年収集した意味がある―と。美術品はいつの世も、人を介して残ってゆく。その橋渡し役ができるのがこの仕事の醍醐味(だいごみ)だと思う。

 

山口桂氏(クリスティーズジャパン提供)

筆者:山口桂(クリスティーズジャパン社長)
1963(昭和38)年、東京都生まれ。立教大卒。92年に世界2大オークション会社の一つ、クリスティーズ(本社・英ロンドン)入社。日本・東洋美術のスペシャリストとして数多くの名品の橋渡しに関わり、2018年からクリスティーズジャパン社長。国際浮世絵学会理事。著書に『美意識の値段』(集英社新書)、『美意識を磨く』(平凡社新書)、『若冲のひみつ』(PHP新書)がある。

 

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