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中国・習近平国家主席に国賓の資格ありや

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《隣に世界最大の市場があるのだから、フルに利用していくべきです》(丹羽宇一郎元中国大使)

 

地球支配めざす習近平国家主席

 

昨年、政府は中国の習近平国家主席を国賓として招聘すると発表した。いったい何のために? と多くの国民が感じたはずだ。

 

内モンゴル、チベット、ウイグルでの徹底的な人権抑圧、南シナ海の侵略、50年維持すると約束した香港の一国二制度の有名無実化、尖閣諸島周辺海域における公船の領海侵入、東シナ海の日中中間線付近における一方的なガス田開発、歴史の捏造。そして、隠蔽による新型コロナウイルスの世界拡散、「ファシズム法」とでもいうべき香港国家安全維持法の施行…。数え上げたらきりがない。習主席は人権を無視し、平然と世界の秩序を破壊する中国の最高責任者だ。

 

6月30日に施行された香港の自由と民主主義を圧殺する香港国家安全維持法全66条を読んだ。どうやら習主席は地球の支配者のつもりらしい。38条にこうある。

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「香港特別行政区の永住民の身分を備えない人が香港特別行政区外で香港特別行政区に対し、本法に規定する犯罪を実施した場合は、本法を適用する」

 

香港に自由と民主主義を取り戻そうと声をあげる者は、どこの国・地域に住んでいようと処罰の対象となるわけだ。私はこれまでトランジットで3回だけ北京と上海の空港を利用したことがある。今後は絶対に中国を経由することは避けなければならない。私のような小者でも空港で拘束される可能性があるからだ。

 

そしてとどめは65条。

 

「この法律の解釈権は全国人民代表大会常務委員会に属する」

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解釈権を手中にしていれば、白を黒として断罪するのはいとも容易なことだ。異端を厳しく弾圧した中世のローマ教皇庁のようなものだ。習主席は神の代理人のつもりらしい。

 

内モンゴル出身の楊海英静岡大教授は『独裁の中国現代史』(文春新書)で、習主席が率いる中国の本質的な恐ろしさを次のように解説する。《尊重し、共存すべき「他者」がいない》《存在するのは、せいぜいアメリカやかつてのソ連のような「手強い敵」だけ》《他民族と共存する能力がないから、人海戦術と武力による同化以外の政策がとれない》

 

なるほどと思う。2015年、習主席は米国のケリー国務長官に「新型大国関係」なるものを提唱し、太平洋を米国と中国で分割統治しようと持ちかけた。彼の眼中には「手強い敵」である米国しかないのだ。

 

 

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両陛下の名誉を汚すことなかれ

 

国賓問題に戻ろう。宮内庁のホームページをのぞくとこうあった。

 

「国賓とは、政府が儀礼を尽くして公式に接遇し、皇室の接遇にあずかる外国の元首やこれに準ずる者で、その招へい・接遇は、閣議において決定されます。皇室における国賓のご接遇には、両陛下を中心とする歓迎行事、ご会見、宮中晩餐、ご訪問がありますが、両陛下はじめ皇族方は心をこめて国賓のご接遇をなさっています」

 

国賓の決定について、両陛下が心をこめてご接遇なさる価値のある人物かどうか、政府は慎重に判断しなければならない。政府は何をどう判断して習主席を国賓として招聘することを決めたのか。

 

ここで誰もが思いつくのが、自民党幹事長の二階俊博衆院議員の存在だろう。1972年9月に日中国交を正常化した田中角栄元首相の衣鉢を継ぎ、経済人を中心に数百人から数千人単位の訪中団を率いてたびたび訪中していることはよく知られている。尖閣諸島(沖縄県石垣市)の国有化などの影響で日中関係が冷え込んでいた2015年5月には、約3千人を率いて北京の人民大会堂で開かれた交流会に参加した。同行したNHKの記者に訪中の意義を問われた二階さんはこう答えている。

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「あの時は、中国の領袖にも、日本の政治指導者にとっても、何かきっかけが必要だった。そういう意味では一つのエポックになっただろうと。ああいうことを思い切ってやるっちゅうのは、重要なことなんです」

 

そしてもう一人。その昔《比較的、親日派でフェアな人物という印象》と習主席を評した丹羽宇一郎さんだ。その見立てが大間違いだったことを、ご本人は自覚されているのだろうか。伊藤忠商事会長をへて民主党政権時代には中国大使を務めた丹羽さんはかつて、作家の深田祐介さんに「将来は大中華圏の時代が到来する。日本は中国の属国として生きていけばいい」と言い放ち、大使退任後には週刊誌でこんな発言もしている。

 

「資源のない日本は海外との貿易なしに生きてはいけない。そんな中、隣に世界最大の市場があるのだから、フルに利用していくべきです」

 

逞(たくま)しい商魂だ。否定はしない。こんな考え方をする経済人と二階さんの進言に、いっこうに上向かぬ日本経済を何とかしなければと思い悩んでいた安倍晋三首相が乗ったのではないか。思い切った政治決断といえる。だが思い出してほしい。安倍首相はこれまで、自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済といった「普遍的価値」を世界各地で訴え続けてきたではないか。やはり花より団子なのですか?

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想像もしたくないが、国賓としての招聘が実現すれば、習主席と礼節をわきまえて歓談する両陛下の映像や写真が世界中に配信される。南シナ海における中国の蛮行に苦しむ東南アジア諸国や、やっと中国に警戒感を持ち始めた欧州諸国は、「日本は巨大市場に目がくらみ、“ファシスト”の接遇を両陛下にさせている」と非難するだろう。それだけではすまない。記録された映像や写真を中国はプロパガンダに利用するに決まっている。

 

昭和天皇と連合国軍総司令部(GHQ)最高司令官ダグラス・マッカーサーの写真を思い出す。開襟シャツ姿でふんぞり返ったマッカーサーと、モーニング姿で直立不動の昭和天皇が並んだあの写真だ。昭和20年9月27日、マッカーサーを昭和天皇が初めて訪問されたときに写されたものだ。

 

戦勝国と敗戦国の明暗を強烈に感じさせるこの写真からは、「お前たちは敗戦国民であり、今後はわれわれの指示に問答無用で従ってもらう」というGHQの意図がありありと感じられる。歴史の捏造や抹消を平然となす中国ならもっと露骨な利用法を考えつくだろう。両陛下の名誉のためにも、国賓としての招聘は中止すべきだ。

 

※香港国家安全維持法の訳は新華社通信による。

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筆者:桑原聡(産経新聞文化部)

 

 

2020年7月17日付産経新聞【モンテーニュとの対話 「随想録」を読みながら】第80回を転載しています

 

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