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震災、今も続く風評被害の苦悩

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「家族と故郷を守り抜く」

 

多くの人生と、残された者の希望を無惨に奪った東日本大震災から10年。「あっという間だった」という人もいれば「遠い昔のような気がする」という人もいる。

 

「助かったのは偶然としか思えない」あるいは「あの時“逃げよう”と声をかけてくれなかったら自分はこの世にいなかった」と、今も東北3県の太平洋岸を中心に生々しい話を伺う機会は多い。

 

私は2011(平成23)年3月11日という日本の歴史に刻み込まれる日から福島第一原発事故を中心に特に福島のことをウオッチしてきた。翌年に原発内部の闘いを描いた『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』を上梓(じょうし)したことも理由の一つだろう。

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マスコミは原発事故で日本人が未曽有の原発事故とどう闘ったのかに目を向けず、ただ原発を糾弾し、東京電力を責め立てることに終始した。私はこの歴史的事象を正確に「後世に残さなければならない」という思いで、1年4カ月かけて吉田昌郎・福島第一原発所長(当時)を説得し、さらに現場で戦ったプラントエンジニア(運転員)たちに多くの話を伺った。

 

その過程で原発事故に立ち向かった運転員は、殆(ほとん)どが浜通りで生まれ育ち、地元の工業高校を出た人たちだったことを知った。

 

「家族と故郷と日本を守り抜く」

 

そんな思いで汚染された原子炉建屋に突入をくり返した彼らの行動には今も頭が下がる。印象に残るのは1号機のベントを成功させた運転員が「原子炉の暴走を私たちが止めなければ、家族も一緒に死ぬんですよ」と語ったことだ。

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たとえ5キロや10キロ避難していても原子炉が爆発すれば「家族の命もない」という意味である。原子炉爆発の“悪魔の連鎖”による東日本壊滅の危機を現場の証言で初めて理解することができた。

 

彼らは家族と国の命を背負い、「事故」と戦い、また現場の足を引っ張る「官邸」、さらには「東電本店」とも戦ったのである。

 

 

10年の歳月と不安煽る報道

 

当時の運転員は10年の歳月に「いろいろな思いがこみ上げます。原発構内はものすごい勢いで変わりました。線量低減はもちろん、働く環境も整えられました。免震棟の床で寝起きし、配給の乾パンと1日1本のペットボトルを2人で共有して対処した日々が嘘のようです」と答えてくれた。

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今、福島で話を伺うと異口同音に返ってくるのは「風評被害」という言葉だ。地元の福島民友新聞の毎週土曜朝刊には県内259カ所の線量が掲載され、全国水準を下回る低線量を実現しているのに、不安を煽(あお)る報道は絶えない。

 

トリチウム問題などその典型だ。福島第一では、放射性物質の量を可能な限り低減させた処理水を多核種除去設備(ALPS)でさらに処理してタンクに保管。これを国際基準に則(のっと)り希釈した上で海洋放出することが依然実現していない。三重水素と呼ばれ、河川や雨水、水道水にも含まれているトリチウムは、各国が規制値を決め、海洋や大気に排出している。

 

だが共産党が反対し同党職員が代表を務める“市民団体”が今も反対運動をくり広げているのだ。朝日新聞は昨年10月19日付福島版で〈市民団体が(海洋放出への)抗議活動をした。約10人が「海に流すな汚染水」と記したボードを掲げ、海洋放出反対の署名を呼びかけた〉と「共産党」にはひと言も触れず報道。わずか10人の街頭活動でも影響は小さくない。

 

地元記者によれば、「どこも共産党がやっているとは書かないですからね。福島県・大熊町・双葉町は国に早期のトリチウム水の処分方法の決定を求めていますが、前進しません。科学的理解より風評が依然上回っています」と。歳月が経過しても、不安心理につけ込む政党の活動やメディアの報道は続いているのである。

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本当の友との絆を学ぶ

 

だが悪いことばかりではない。危機の際に助けてくれる本当の友を知ることができたのは大きかった。米国による“トモダチ作戦”もそうだし、人口2320万の台湾が義援金253億円を日本に送ってくれたこともそうだ。日本の人口にあてはめれば実に「1360億円」に相当する巨額の義援金である。台湾全土に広がった“日本を助けよう運動”では、窓口になっていたコンビニのレジに幼い子供まで「(これで)日本をたすけてください」と大事な貯金箱を差し出す光景があちこちで見られた。日台の絆が一気に深まったことは嬉(うれ)しかった。

 

中国が今月1日、台湾産パイナップルを輸入停止にした途端、日本で台湾を助けようとの声が湧き起こり、数日で史上最多6000トンの緊急輸入が決まったことも日台の絆の強さを表すものだ。

 

覇権国家・中国の台頭によって東アジア情勢はこの10年で激変した。日本は中国の“力による現状変更”に敢然と立ち向かわなければならない。その際、重要なのは真の友と「手を携え、協力し合う」ことだ。私たちは10年前にそのことを学ばせてもらったのである。

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筆者:門田隆将(作家・ジャーナリスト)

 

 

2021年3月1日付産経新聞【正論】を転載しています

 

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