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インタビュー|逆境はあがいて乗り越える:「獺祭」で世界の心を勝ち取った桜井博志会長に聞く

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ジャパンフォワード編集長、内藤秦朗が司会を務めた令和アカデミー倶楽部主催のオンラインイベントで旭酒造株式会社会長、桜井博志氏が自身の歩みを振り返った。

 

インタビュー前編  インタビュー後編はこちら

 

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「自分自身がつらい状況にあるときは、状況がいかに悪いかということはあまり考えないものだと思います。ただその中でやれることをやって、乗り越えていくだけです。」

 

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コロナ渦にあって、絶望感を感じる経営者がいても不思議ではない。しかし、これからご紹介するのはそういった話ではない。逆境の中でこそ見出せる学びと活路――。そんな話をご紹介したい。

 

桜井博志会長はまさにそんなストーリーを体現する人物だ。桜井氏は1984(昭和54)年、34歳で当時経営が傾いた父の会社、旭酒造を引き継いだ。

 

若き経営者は、山口県岩国市にある木造二階建ての蔵から始め、純米大吟醸酒作りに着手。銘酒「獺祭」を生み出す。国内での売り上げを飛躍的に伸ばし、海外展開にも成功した。

 

若さと努力の賜物だと言えるかもしれない。しかし、桜井会長の考えは異なる。

 

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桜井氏は酒米の王様と呼ばれる山田錦を、科学と職人の勘の両方に基づく手法で精米する。まさに「手間をかける」の一言に尽きる製法で、日本最高水準の精米歩合23%の純米大吟醸(「獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分」)を開発。華やかな香りと、深みがありながら清廉な味わいの酒が生まれた。

 

「獺祭」は、フレンチ界の巨匠ジョエル・ロブション氏の心をも掴み、パリに「獺祭」とフランス料理のコラボレーション店がオープンした。

 

香港のオークション「サザビーズ香港」にも出品され、安倍晋三元首相は世界各国の首脳へのギフトとして「獺祭」を贈っている。

 

今年1月20日に令和アカデミー倶楽部が主催し、内藤泰朗JAPAN Forward 編集長が司会を務めたオンラインイベントでは、旭酒造株式会社の桜井博志会長をゲストとして迎え、コロナ渦における戦略と視点、氏が辿った成功への道筋、アメリカに進出する「獺祭」の次の一歩について、お話を伺った。

 

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オンラインイベントで語る旭酒造株式会社、桜井博志会長。(2022年1月20日)

 

 

コロナ渦での経営はどのような状況ですか?

 

オミクロン株の感染が急増した際、お酒を出す飲食店の営業時間が短縮されました。山口県でも、酒類提供の全面中止を求める声もありました。

 

これはあくまで私個人の意見ですが、私たち(企業)は火の粉を浴び続けているような気がします。製造業にとっては本当につらい状況で、これでいいのだろうかと疑問を感じてしまう。

 

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同時に、普段通りの仕事をこなしていく必要があります。

 

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、海外売上高が昨年51%を記録し、初めて(全売上高の)50%を超えました。日本国内で代理店を持つのをやめて、海外に進出する企業も相当数あるのではないでしょうか。

 

日本国内の感染状況が拡大することによって、「獺祭」は海外に回せる数字が増え、海外売上を伸ばせているというのは、皮肉だというか、パラドックス的な感じがします。

 

最も多く輸出している国は?

 

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やはり(旭酒造が)一番多く輸出しているのは、市場として拡大している中国です。アジア全体の売上は、この2〜3年で爆発的に伸びている。

 

「21世紀はアジアの世紀」と言われて久しいですが、これまでは本に書いてあるだけにしか思えなかった。しかし今は本当に、その時代が来たという感じです。

 

また非常事態宣言が出された場合、やはり企業は困るのでしょうか?

 

特に政治家の皆さんには、自分たちの支持率を計算するのではなく、何が本当に大事なのか、経済を守りながら、感染症の蔓延を食い止めるにはどうしたらいいかを考えてほしい。

 

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特に海外に輸出していて実際に感じるのは、経済で日本が一人負けになっている状況です。アジア、イギリス、フランス、アメリカなどでは、それほど市場が壊れている雰囲気はない。日本の政治家には、この問題をよく考えてもらいたい。

 

日本の経済状況は諸外国と比べて悪くなっているのでしょうか?

 

飲食業は悪くなっていると思います。経済全体としては健康だが、心理的に人々の気分が落ち込んでいる。正常な状況ではありません。

 

新型コロナウイルスに関わる規制について、メディアで立場を表明されていますが、ご自身の意見に対する反応はいかがでしたか?

 

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特に飲食の方々は「よく言ってくれた」と喜んでくれました。新型コロナウイルス拡大による蔓延防止措置によって、私たち飲食業界の人間は、自分たちはもう世の中に必要とされてないと、ずっと悪者扱いだったわけですから、自分たちの言いたいことを代弁してくれたという話は、ずいぶんたくさんいただきました。

 

弘兼憲史さんによる漫画の伝記を読むと、ご実家の旭酒造は、今の多くの企業と同じように、かつては経営がかなり苦しかったそうですね。それを克服するのは大変なことだったのでしょうか。

 

自分自身がつらい状況にあるときは、状況がいかに悪いかということはあまり考えないものだと思います。これはこれで仕方ないと思うものじゃないですか。ただその中でやれることをやって、乗り越えていくだけです。時間が経ってから、「あれはひどかったな」と振り返るんですよね。

 

漫画家の弘兼先生にも「大変だったな」と言われましたが、本人は、当時はそんなこと思ってもいなかったんです。ただ、仕事には経済的な困難がつきものだと思っていました。そして、トンネルの先には光があると感じていました。こんなものだろうと思って毎日毎日あがいていたら、いつの間にか広い花畑に出たな、とそんな感じですね。

 

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実は、最近の問題のひとつは、物事がいかに悪い方向に進んでいるかを人々が(過度に)考えて、あがいていないことだと思うんです。「困った、困った」、「ダメだ、ダメだ」と言って、あがいていない状況なので。そして、それを見越して希望が持てないから、貯蓄に走り、心理的経済は水面下に落ちていくという。なんか嫌な感じですよね。

 

「獺祭」は今や世界中で知られるブランド酒となった。

 

 

「獺祭」ブランドはどのように生まれたのですか?

 

私たちは、岩国という人口1万5千人ほどの小さな町の「負け組」の酒蔵だったわけです。

 

地元では負け組でどうしようもないから、なんとか生き残ろうという時に東京市場に活路を見出した。それで今があるんです。私たちは、山口から東京に泣きながら出てきた経験があるわけですね。そのまま海外にも出て行った。

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私たちは、常に大きな市場で少しの売り上げをいただくという成功体験がある。小さな市場で、シェア競争をやって同業他者を叩き潰して、自分たちが大きくなっていくという経験はしたことがないんです。その勝負は負け続きなんです。だから大きな市場に出ていけば、私たちはなんとか生き残れる価値がある。だから、東京でなんとかやっていけるようになったら、次は世界だ、と。

 

だから私たちとしては、当たり前のことをしているだけなんです。

 

東京市場で売れるものを作り出すにあたって、一番大変だったことは何ですか?

 

やっぱり地域のしがらみじゃないですかね。そこから離れていく時というのは、地域から批判する人が出てきます。

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尊敬する先輩の方々からも「地元を無視して商売がうまくいくのか」と言われたこともありました。それを言われるとぐうの音も出ない。しかし、地元の市場に依存していてはやっていけないという現状があるわけで。

 

要するに、人に指をさされることが一番辛かったんです。今でもたまにあるんですけど、もう気にしていません。出過ぎた杭は打たれないなんて言いますけど、ずっと打たれている感覚があるので。打たれても、打たれても、前に進むしかないんです。

 

東京を経て、次は世界へ。なかでも注目は、ジョエル・ロブション氏とのコラボレーションプロジェクトです。最初の出会いはどのようなものだったのですか?

 

ロブションが「Yoshi」という日本食レストランをしているモナコに行く機会がありました。そこへロブションさんが来ていたんです。それで利き酒をしてもらおうと、メトロポリタンホテルで彼と一緒に日本酒のテイスティングイベントを開催することができました。その時、彼はただ試飲して、あまり多くを語らず、それで終わってしまった。もしかしたら、お気に召さなかったのかなと思いました。

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それから2、3年経って、彼(ロブション)から連絡があったんです。後で知ったんですが、あの日、うちの酒を飲んだ時に、自分が作れる料理がいくつも浮かんだんだそうです。「そうだったらあの時そう言ってくれれば、ほっとしたんだけどな」と思ったのを覚えています。

 

2018年にオープンしたコラボレーション店にてジョエル・ロブション氏。

 

後編へ

 

インタビュー:内藤泰朗
記事:Arielle Busetto

 

 

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