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インタビュー|アメリカ市場での日本酒の可能性:「Dassai Blue」の桜井博志・旭酒造会長に聞く

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旭酒造「獺祭」:アメリカでは「Dassai Blue」の銘柄で勝負をかける。

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世界的なブランド日本酒として成長を続ける「獺祭」。その仕掛け人である桜井会長に、将来への夢と構想、未開拓のアメリカ市場について聞きました。

 

インタビュー後編  インタビュー前編「逆境はあがいて乗り越える:「獺祭」で世界を取った桜井博志会長に聞く」はこちら

 

「自分自身がつらい状況にあるときは、状況がいかに悪いかということはあまり考えないものだと思います。ただその中でやれることをやって、乗り越えていくだけです。」

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本インタビュー記事の前編では、小さな無名の醸造所から銘酒「獺祭」を生みだし、世界的なブランドにまで成長させた旭酒造株式会社、桜井博志会長の功績とこれまでの歩みを取り上げた。桜井会長の精力的な挑戦は続いている。

 

日常の業務を息子の一宏氏に譲り、会長となった桜井氏は、新たな一歩をアメリカに定め、銘酒米「山田錦」にスポットを当て、日本の酒造りの手法を世界に発信することを構想している。

 

令和アカデミー倶楽部では、2022年1月20日にJAPAN Forward編集長・内藤泰朗の司会のもと、桜井博志氏を迎え、コロナパンデミックに対する戦略や視点、成功への道のり、「獺祭」の次のステップであるアメリカでの展開などをテーマに対談イベントを開催した。

 

後編を抜粋してご紹介する。

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東京、ヨーロッパときて、なぜアメリカで酒蔵をつくろうと思ったのですか?

 

色々議論が分かれるところですが、個人的には、世界の中で引っ張ってきたのはアメリカだと思うんです。もちろん食に関して言えば、フランスやイタリアは非常に重要です。しかし、アメリカは文明や文化、経済成長を引っ張ってきた場所で、その中心は東海岸です。

 

最近のアメリカは、西海岸がITの一大中心地になっていますが、本当の中心地はまだまだ東海岸なんです。そこで酒蔵をつくり、「Dassai Blue」という銘でアメリカ市場に浸透していきたいと思っているんです。

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「獺祭」がアメリカでここまで知名度が上がったきっかけになったことは何なんですか?

 

よく聞かれるんですが、実は私もわからないんです。ただ、私たちはアメリカで本気になって売ろうとしたんです。こういうことを言うと、業界の皆さんから石が飛んでくるんだけど、あんまり皆さんは海外に本気で輸出する気はなかったんだと思うんです。

でも私たちは、地元で生き残れなくって東京市場に出て行った経験がありますから、アメリカ市場、世界に出ていく時にも、本気で、そのつもりでやっています。だから決して大戦略を立てたわけでもないし、飛び道具を使ったわけでもない。普通にやっていっただけなんですが、ただただ私たちには「その気があった」という説明しか、出てこないです。

 

桜井博志旭酒造会長とジャパンフォワード編集長、内藤泰朗

 

アメリカで「獺祭」がブレイクするまでに、どのくらい時間がかかりましたか?

 

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その意味では最初から手ごたえがありましたよ、可愛げのないことを言いますが。

 

ある程度、日本で売れ始めてからアメリカに出て行ったのもありますし、アメリカでお願いしようとしていた代理店さんにも、「日本でこれだけ売れている酒蔵だから、売らないと損ですよ」と、最初から話したこともありましたし。

当時のうちの酒蔵は今の20分の1くらいの規模しかありませんでした。アメリカでの最初の注文はパレット1枚、2枚ぐらいのものだったと思いますけど、「え、アメリカこんなに売れるの」と思いました。私たちからしたら、アメリカでこんなに売れていいのかという気持ちでずっとやってきたんです。

現在のコロナ渦のアメリカでの売れ行きはどうですか?

 

アメリカ市場は今、コンテナ(出荷用)さえ確保できれば、いくらでも売れます。ですから、コンテナは少々高値でも、倍の値段でも、コンテナを確保しようと思っています。アメリカ市場は今、まだ日本酒はちょうど枯渇状態にあると思うので、まず持ち込めばなんとかなる。

では、その差は「決断」ということなのでしょうか?

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そうですね。ただその代わり、その裏の背景にあるのは、やはりその分、値上げはしていかないといけないですね。アメリカで、日本の価格で出していたら、早晩合わなくなっていきます。特にアメリカは運賃も物価も上がっている。値段がついていかないと息切れしちゃいますから、そこは大事だと思います。

 

日本酒の価格を上げるために、山田錦のチャレンジなど、さまざまな工夫をされているようですね。そのあたりをもう少し詳しくお話いただけますか。

 

1月15日にも、最高の山田錦を作ってもらおうということで、全国(日本)の農家を対象にコンテストを実施しました。一位の農家には、60俵購入させていただく。1俵50万円、ですから3千万円で購入させていただくんです。だから授賞式のプレゼンターの方が「フェラーリが買えますよ」と冗談を言っていました。

 

これは何をしたいのかというと、やはり今の日本の農業ってなんとなく希望がないんです。もちろん、清く正しく真面目なんですけど、もう少し楽しいところ、飛び跳ねたところがないと。

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だから、私たちとしては1俵2万5千円くらいが相場ですが、その20倍の価格で山田錦を買う。そういったことが年に一度あれば、「隣の父ちゃんが3000万円もらったぞ」となれば、他の農家も本気になりますよ。そんな風に、みんなにその気になってもらいたいということでやっています。

山田錦の生産競争を後押しする試み(写真提供:旭酒造)

 

こうした取り組みが、日本酒の値上げにつながるということでしょうか?

 

そうですね、やはり一人ではできませんし、そうでないと現在の価格が本当のコストを反映していない状況になってしまいますから。

最近、香港のサザビーズ・オークションハウスに、23本の限定コレクションの中から5本を出品したんです。1本あたり843,750円で、中国、台湾、香港、日本の人たちに購入いただきました。

ワインと違って、これまで日本酒はなかなか高い価格帯には入っていけなかった。しかし、今回のオークションで、新しい世界が開けたような気がしました。

 

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残りの18本のうち、ロンドン、ドバイ、ラスベガスで1年以内にほとんど売れてしまい、国内では残り3本となりましたが、これは一部のお客様とのお約束で残してあります。

なぜ、日本から輸出するだけでなく、米国で醸造所を持つのですか?

 

そうですね。今の物価の状況などを見れば、アメリカで造る方が絶対にコスト高になるんです。ではなぜ、アメリカで造るのかとういうことですが、やはり日本酒はまだ、アメリカの市場にしっかりと浸透していないんです。ほとんどの人は日本酒を知らないし、特殊なアメリカ人か、アメリカ在住の日本人しか、普段から飲んでいる人はいない。それなのに「日本酒ブーム」などと言って喜んでいるんです。でも、これでは将来はない。

しかし、本当にアメリカの市場に参入する際、低い価格で、安い酒のマーケットから入るのは、日本酒の場合は難しい。だから、やはりハイエンドで参入する必要がある。

 

そのためには、アメリカで酒蔵を作り、実際にアメリカの市場を見ながら、反応を見て、修正しながらやっていかなければならないと。

コロナの関係で、2年ぐらい遅れてしまいました。アメリカの認可プロセスもありますので、今年(2022年)末から、2023年初めには、アメリカで最初のお酒の醸造に着手することができると考えています。

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お米はどのように調達する予定ですか?

 

私たちは、山田錦で造ることにこだわってきました。アメリカの醸造所でも、日本から持っていく米と、アメリカで生産された米を使う予定です。最近、アーカンソーやカリフォルニアでも山田錦の生産が始まっています。

 

そうすると味も変わってくるかもしれませんね?

 

私の理解では、山田錦は約20年前にアメリカに持ち込まれ、それ以来栽培されてきています。それを私が持ち帰り、遺伝子検査をしたところ、間違いなく山田錦でした。確かに山田錦なのですが、外観が何か違うのです。

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日本であれば、原原種を苗を持ち込んで一から育てることもできますが、国が異なると政府の認可が必要ですし、山田錦はすでに(アメリカに)存在しているので、簡単にはいきません。

 

山田錦の純粋な原型を取り戻すには、何年かかかるかもしれませんね。

 

また新たな物語りが生まれるような...。

 

よく私は言うのですが、うちの酒蔵で日本一が一つあると。何かというと「失敗の数が日本一だ」と。

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夢は何ですか?

 

実は手近にやりたいことが1つあります。

 

酒を造りながらずっと考えていることですが、日本酒を造るには、多くの時間と手間がかかります。しかし、これまでの人間の文明、欧米の文明は、手間をいかに排除するかを目指し、単純化、機械化してやってきました。

 

ところが、それでは日本酒はいい酒はできないんです。

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欧米の文明からしたら劣ったもの、邪魔なものとされる手間というのがすごく大事なんです。この「手間」という概念を世界中に打ち出していきたい。そしてこの手間の概念と共に「獺祭」をさらに海外で伸ばしていきたいと思っています。

 

オンラインイベントで乾杯の音頭をとる桜井会長

 

会長は2021年に「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパン賞」を受賞されました。日本を代表する起業家として認められての受賞だと思いますが、それについてお聞かせください。

 

世界中の起業家を表彰するものなのですが、新しいことを始めることは非常に重要ですからね。ですからそういった人たちを発掘し、さらにつなげていこうというものです。

 

今年5月に状況が許せば、モナコで授賞式があります。

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欧米の文明の文脈の中で、こういう起業をしましたと訴えたところで、勝ち目はない。そこは日本独自の文化、文明を打ち出していくしかないと思うので、「手間」の概念を含む日本のやり方をアピールしていきたいと思います。

 

日本では、日本酒を冷やして飲むというのは一般的ではありませんでした。最近は、冷やした日本酒が主流になってきました。燗酒への回帰はあるのでしょうか?

 

日本酒は冷やしても、温めてもおいしいです。熱燗もおいしいですし、実際、私もうちの酒を50度くらいの熱燗で飲んでいますが、おいしいです。ただ、歴史的に見ると、熱燗はごく最近のことです。冷酒が主流で、江戸時代くらいから燗酒が習慣になりました。

 

今は、熱燗で飲む人、常温で飲む人、冷やして飲む人、色々いて良いと思います。私が見たところ、外国人は燗酒を好まないことが多いですね。冷やした日本酒はとっつきやすいんです。でも、もしかしたら日本酒がブームになったら、燗酒も流行る未来が来るかもしれませんね。

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海外で日本酒を提供する際、どのような工夫をされていますか?

 

初めて日本酒を飲む人がいるのだから、美味しく飲ませないといけないと常々思っています。日本人は、日本酒をある程度知っていますから、どこに美味しさのスイッチがあるかをわかっている。何が良くて、何が悪いかを見分けることができるわけです。

でも海外の人は日本酒を知らないわけですから、最初の一発目から「おいしい」と思わせなければ、勝負にならない。

つまり飲む前の香り、口に含んだ時に感じる味わい、飲み込んだ後の余韻のバランスがすごく大事ですね。

 

ワインではよくペアリングの話が出ますが、「獺祭」ではそのようなおすすめはありますか?

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私たちはとにかく、良い酒を造ることに専念し、その上でお客様が良いペアリングを考えてくれたら嬉しいですね。

 

ただ、海外では寿司を含め、日本食が伸びています。日本食を食べる時にはやはり、心情的にも日本酒を飲んでみたいという気分になると思うんです。そこの本当においしい日本酒が入ってくれば、海外のお客様も納得すると思うんです。

 

ヨーロッパのソムリエによると、日本酒は、ワインでは実は合わせにくい野菜や、ゆで卵、チーズに合うそうですよ。

インタビュー:内藤泰朗
記事:Arielle Busetto

 

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