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[医薬再興]「ワクチン敗戦」日本の現在地~3~ 「ワクチン不信」 開発消極的

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「ようやく、世界に誇れるワクチンが実現できるかもしれない」。4月、新型コロナウイルスワクチンの開発を続けるKMバイオロジクス(熊本市)の関係者が期待を口にした。

 

日本では今、海外製の使用を想定した4回目接種の計画が進む。一方、国内企業が研究開発するワクチンは承認申請にすら至っていない。国産ワクチンは海外勢に比べ、周回遅れどころか2周、3周の差をあけられていると揶揄(やゆ)されてきた。

 

KMバイオは令和2年5月から、インフルエンザ予防にも使われてきた従来型の「不活化ワクチン」の開発に挑んでいる。これまで追加接種への供給を狙ってきたが、驚異的な発症予防効果を示すメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンが普及する中、戦略変更を余儀なくされた。

 

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今、開発を急ぐのは、生後6カ月~5歳を対象に含む小児用ワクチンだ。不活化ワクチンは副反応が少ないとされ、乳幼児用の4種混合でも使われてきた実績がある。今年4月、国内で治験を開始。今年度中の国内供給を目指しており、実用化できれば、世界でも注目される。「まだ、不活化ワクチンの存在意義はある」。KMバイオ社長の永里敏秋は力を込める。

 

 

接種方針 国が転換

 

日本はかつて世界有数のワクチン創出国だった。水痘や日本脳炎などのワクチンも日本が生み出した。ところが昭和40年代から、予防接種に関する重大な副反応の報告が相次ぎ、国民の間でワクチンに対する不信感がつのっていった。

 

種痘やポリオなどの接種を受けた後、死亡したり後遺症が出たりした患者や家族らが国の責任を問い、40年代後半から各地で提訴。平成4年、東京高裁判決は国に賠償を命じ、国は上告を断念した。平成元年に導入されたMMR(はしか、おたふくかぜ、風疹)ワクチンでも副反応で無菌性髄膜炎が続発。厚生省は5年に接種中止を決めた。

 

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こうした経緯があり、国は消極姿勢に転じる。6年の予防接種法改正で、定期接種は「義務」から「努力義務」に、「集団接種」も個人が意義とリスクを理解したうえで行う「個別接種」に転換した。24年、国の規制・制度改革に関する分科会では、厚生労働省の担当者が「副反応の問題が非常に大きく取り上げられた。新しいワクチンをやるのは怖い」と吐露した。

 

後ろ向きな姿勢は、日本に新しいワクチン技術の基盤を根付かせないことにつながる。「ワクチン大国」は過去のものとなった。

 

 

迅速な審査体制 急務

 

岐阜県池田町。濃尾平野最北端の田園地帯に、世界最大級のバイオ医薬品工場がある。新型コロナの国産ワクチンで最も実用化に近いとされてきた、塩野義製薬の「組み換えタンパクワクチン」の製造施設だ。

 

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同社は速やかな供給を目指し、国からの補助373億円を含む計約417億円を投じて設備を整備。年間最大6千万人分を製造する能力を備えた生産ラインはすでに完成し、本格稼働に向けて準備を進めている。

 

塩野義はもともと令和3年度内の供給を目指していたが、今月11日に開いた決算会見で、ようやく6~7月にかけて承認申請を目指すと明らかにした。遅れの原因は、治験の対象者集めの難航。大規模治験に移れた3年秋には国内外ですでにワクチン接種が進んでおり、数万人規模で未接種者を募るのが難しくなっていたことが誤算だった。

 

「技術を積み上げていくという上で、民間もアカデミアも国も遅れていた」。社長の手代木功は、欧米とのスピードの差を悔やむ。

 

塩野義が開発するワクチンは、かつてインフルエンザ用にベンチャーのUMNファーマがアステラス製薬と開発し、承認申請した技術をベースにしている。ただ、この申請は審査当局の医薬品医療機器総合機構(PMDA)に退けられ、実用化しなかった。以降、新型コロナ禍まで、日本ではワクチンに関する幅広い知見が蓄えられてこなかった。その後、塩野義はUMNを傘下に収め、当時の課題を克服した技術でコロナワクチンの開発を進めた。

 

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「企業側の開発が停滞したということは、その間、審査体制の充実も難しかったという懸念がある」。厚生労働省で医政局長を歴任した武田俊彦が指摘する。

 

 

戦略物資の認識

 

コロナ禍を契機に、国内でも感染症治療薬やワクチンが戦略物資であるという認識が高まった。国も研究開発に対する支援制度、製品買い取りの仕組みづくりを進めている。加えて、審査当局の充実も必要だというのが武田の指摘だ。「PMDAは企業の開発を的確にサポートし、迅速に審査を進めてきたのかという検証も必要になるだろう」

 

審査の能力が下がれば、欧米で認可されたワクチンの治験が日本で後回しにされる「ジャパン・パッシング」も生じかねない。日本で、自前のワクチン開発にスムーズに挑める環境づくりが急務となっている。 (敬称略)

 

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2022年5月13日付産経新聞【医薬再興 第1部「ワクチン敗戦」日本の現在地~下~】を転載しています

 

この記事の英文記事を読む

 

【[医薬再興]「ワクチン敗戦」日本の現在地】
第1回:「ワクチン大国復権」に命運
第2回:場当たり支援 創薬出遅れ
第3回:「ワクチン不信」 開発消極的

 

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