自由で開かれた世界のために
8月3日、台北で台湾の蔡英文総統(右)
と会談したペロシ米下院議長
(台湾の総統府提供=AP)
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8月2日夜、米国のペロシ下院議長が台湾到着後に発表した声明を読み、これからの世界はますます安倍晋三元首相が第1次政権当時から構想し、時間をかけて民主主義陣営を巻き込み実現させた戦略が、重要になってくると感じた。声明にはこう記されていた。
「(台湾指導層との対話は)自由で開かれたインド太平洋の進展を含む共通の利益を促進するものだ」
米国が歴史上初めて、日本の戦略を自国の戦略方針として取り入れた構想は、インド、オーストラリアだけでなく欧州も賛同した。今や巨大な人口と軍事力を誇示する専制国家、中国と対峙(たいじ)するうえで、欠かすことのできない前提条件となっている。
3日には、首相官邸に岸田文雄首相を訪ねたエマニュエル駐日米大使も、記者団にこう語った。
「経済安全保障、国家安全保障、自由で開かれたインド太平洋をいかに強化していくかという話もした」
ここでも「自由で開かれたインド太平洋」がキーワードとなっている。岸田首相が「核兵器のない世界」という理想を掲げ、日本の首相として初めて、原子力の平和利用を議論する核拡散防止条約(NPT)再検討会議に出席した直後の訪問である。
大使は記者団に、首相の再検討会議での演説も称賛した。だが、その実は「まず眼前の現実を直視しましょう」とクギを刺し、「防衛費の相当な増額」という首相の約束が果たされるのか確認に来たとみるのは、うがち過ぎだろうか。
ただ、同盟関係には不断の手入れが必要であることは、安倍氏が常々主張していたことでもある。
安倍氏の側近だった萩生田光一経済産業相は7月29日、日米の外務・経済担当閣僚による「日米経済政策協議委員会」(経済版2プラス2)の初会合に出席のため訪問した米ワシントンで記者会見をした。萩生田氏はその場で、米国民の安倍氏への弔意に謝意を述べた後、こう語った。
「安倍氏は一貫して日米両国、両国民の絆をさらに強固なものにすることに政治生命を傾けてきた」
筆者は2015年4月、安倍氏が米上下両院合同会議で行った英語演説「希望の同盟へ」が思い浮かぶ。かつて敵国同士だった日米の和解と友情をテーマにした演説は、スタンディングオベーションを呼び、当時の外務省幹部は筆者に「ペロシ氏が涙ぐんでいたね」と驚き喜んでいた。
萩生田氏は、安倍氏の功績に関してこう続けた。
「CPTPP(11カ国で締結された環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)、自由で開かれたインド太平洋、クアッド(日米豪印の協力枠組み)。10年間で、この地域の平和と繁栄を支えるさまざまな基盤を作り上げてきた」
そして、首相に返り咲いた安倍氏がかつて「Japan is back(日本は戻ってきた)」と宣言したことにちなみ、やはり宣言してみせた。
「Japan is here to stay(日本はここにあり続ける)」
萩生田氏はさらに「これからも日本は、米国と手を携えて世界の平和と繁栄のために力を尽くしていく。その明確な決意を申し上げるために、私はこの場所にやってきた」と語った。
世界の安全保障環境は悪化の一途をたどっている。同盟国や民主主義各国との絆と連携の輪にほころびが生じれば日本は即、危機に陥る。防衛力強化に猶予はない。
筆者:阿比留瑠比(産経新聞論説委員兼政治部編集委員)
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2022年8月4日付産経新聞【阿比留瑠比の極言御免】を転載しています
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