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中国の「急所」35分野の技術

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国務院直属紙が記事削除

 

日本政府関係者の間で注目されている記事がある。2018(平成30)年に中国の国務院直属の科技日報が、中国が自前で生み出せない「急所」となる35分野の技術を特集したものだ。原文はホームページで削除されたが、自らの弱点を世界にさらしたことで慌てて削除したとみられている。

 

政府関係者によると、35分野には日本が強みとする分野も含まれている。代表的なのが、日本が世界シェアの9割を持つ半導体の「フォトレジスト技術」だ。半導体は製造する際に細かい回路をレーザー照射で描く必要があるが、フォトレジストは版画のようにレーザーが当たらない部分を作る際に用いられる素材だ。

 

世界に安価な半導体を提供する中国だが、日本の技術を使わなければ半導体は作れない。レジスト大手のJSR担当者は中国が内製化しようとしても「長年の蓄積がモノを言う。お金をかければすぐ追いつける分野ではない」と話す。

 

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これだけではない。35分野には産業ロボットのコアアルゴリズム、ハイエンド(高度)のコンデンサーと抵抗器、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、リチウム電池セパレーター(絶縁材)など日本の得意技術が並ぶ。

 

 

激しさ増す威圧

 

政府関係者が中国の「急所」に注目するのは、対中経済関係が生む負の側面に危機感があるからだ。経済力を背景にした中国の威圧は激しさを増している。

 

16年には韓国が米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)の受け入れを決定したことをきっかけに、中国は韓国企業を中国から締め出すなどした。18年にカナダ、20年にはオーストラリアが威圧の標的となっている。

 

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「国際的な産業チェーンのわが国との依存関係を強め、外国が供給を止めることに強力な反撃・抑止能力を作らなければならない」

 

中国国家主席の習近平は20年4月の講話で強調した。裏を返せば、外国政府を操る武器として対中依存を利用する考えを示したと受け止められた。35分野はこれに対抗するため反撃手段となるリストでもある。

 

 

遅れた経済安保

 

10年9月、尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖の領海内で中国漁船が海上保安庁巡視船に衝突する事件が発生し、海保は中国人船長を逮捕した。中国政府はレアアース(希土類)の対日輸出を停止した。

 

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これが教訓となり、経済安全保障に関する法整備が進んでもおかしくなかったが、そうはならなかった。国家安全保障局に経済安保を担う経済班が設置されたのは20年4月で、中国のレアアース輸出停止から10年近くが過ぎていた。経済安保推進法の成立はさらに2年後の今年5月だった。

 

同法の柱であるサプライチェーン(供給網)強靱(きょうじん)化や基幹インフラの安全確保は防御手段だが、中国に対抗するには反撃手段が必要となる。しかし、経済班には輸出管理を得意とする人材が集まり、「隠れた武器」の発掘に資する産業政策系の人材が組み込まれていないとの指摘もある。

 

東大公共政策大学院教授の鈴木一人も中国からの経済的威圧に備え、調達先の多元化や備蓄などを行うことに加え「中国からやられたらやり返すための武器を持つ必要がある。つまり他国にない唯一無二の技術や製品を持っておくことが重要で、これが抑止力につながる」と話す。(敬称略)

 

 

対中秩序観 問われる首相

 

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1972(昭和47)年の国交正常化以降、日中間の経済関係は順調に発展し続けた。ヒト、モノ、カネが相互に行き交い、お互いにとって不可欠なパートナーとなることで国家間の紛争も武力行使に発展せず、平和的に管理できる―。中国の台頭がはっきりし始めた1990年代以降も、日中経済関係の強化を是とする認識は広く行き渡っていた。

 

2000年代、首相の小泉純一郎による靖国神社参拝などで日中関係が冷え込んだにもかかわらず、経済関係が両国の結びつきを支える状態は「政冷経熱」と呼ばれた。政治と経済は分離可能であり、しかも経済関係の強化が外交関係に良好な影響を及ぼすという認識が前提にあった。

 

こうした認識が変わるきっかけとなったのは、2017年1月のトランプ米政権誕生だ。中国との経済的な結びつきを切り離す「デカップリング」を進めた。日本政府も、急成長する経済力を背景に周辺国に威圧をかける中国に対抗するため、経済安全保障に取り組むようになる。

 

とはいえ、07年には日本の貿易相手国として中国が米国を抜いて1位になり、貿易額は1995年から6倍に膨れ上がっている。中国との経済関係を完全に切り離すことは現実的ではない中で、問われるのは日本が思い描く経済秩序にどう中国を位置づけるかだ。

 

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安倍氏の別の顔

 

中国に対して厳しい姿勢を示した元首相の安倍晋三に対し、首相の岸田文雄は中国にとって御しやすいとの見方もある。岸田が会長を務める自民党宏池会(岸田派)は伝統的に対中関係を重視してきたからだ。しかし、中国政府内には全く逆の見方もある。

 

「安倍さんよりも、岸田さんのほうが怖い」

 

今年に入り、日本政府関係者は、中国外務省関係者から意外な認識を伝えられた。その理由を尋ねると「岸田さんは外交の戦略観がない。自民党内の声に左右されてしまう恐れがある。安倍さんは戦略観があるから、党内にいろんな意見があっても自分で着地点が見つけられた」と答えたという。

 

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安倍は中国国家主席の習近平との会談で、尖閣諸島(沖縄県石垣市)をめぐり「私の島に手を出してはいけない。私の意志を見誤ってはいけない」と迫るなど、愛国者として中国に立ち向かう姿勢を鮮明にした。その一方で、経済関係では「対中タカ派」とは別の顔ものぞかせていた。

 

 

残り時間わずか

 

安倍政権は対中包囲網を形成するため「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を目指す姿勢を打ち出した一方、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」には条件付きで協力する姿勢を示し、中国との関係を安定的に管理することに腐心した。習が2019年4月に国際ルールを尊重する考えを示すと、これを歓迎して20年春に習を国賓として招くと決定した。

 

ルールに従う姿勢を見せるのであれば、党内の反対があっても中国との対話を進める―。安倍が示したような秩序観は岸田にないのではないか、そして下手に岸田政権と交渉して手のひらを返されたら中国国内で批判されるのではないか、という不安が中国側にはある。

 

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日本としても、中国との間で完全な対立となれば生じる悪影響は計り知れない。外務省幹部は「既存の国際秩序から受ける恩恵を中国に認識させ、ルールに従わせなければならない」と語る。その際、経済安保で反撃の武器となる唯一無二の日本の技術は、国際秩序をめぐる中国との交渉でも有効な武器となり得る。

 

だが、中国の国内総生産(GDP)は日本の3倍以上となり、28年に米国を抜くとの予測もある。中国が自信を深め、ロシアや南半球を中心とする国々とともに「自由でなく、開かれてもいない国際秩序」の形成に向かう可能性も否定できないのが実情だ。(敬称略)

 

 

2022年10月3日付産経新聞【異相の隣国 日中国交正常化50年(5)】を転載しています

 

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