日本初の月面着陸へ 世界最小探査機オモテナシ 常識破りの挑戦
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日本初の月面着陸に挑む宇宙航空研究開発機構(JAXA)の超小型探査機「オモテナシ」が11月16日にも、米フロリダ州のケネディ宇宙センターから米航空宇宙局(NASA)の新型ロケットで打ち上げられる。NASAが進める国際月探査「アルテミス計画」の一環。成功すれば、旧ソ連、米国、中国に続く4カ国目の月面着陸となる。
オモテナシは、縦24センチ、横37センチ、高さ12センチの小包ほどの大きさで、重さ12・6キロ。NASAの新型宇宙船「オリオン」の無人試験飛行に合わせ、打ち上げに使う新型ロケット「SLS」の余剰能力を生かして相乗りする。
固体ロケットや通信機などを搭載し、打ち上げから約4時間後にロケットから分離されて単独で月を目指す。日本からの遠隔で軌道制御を行い、打ち上げから5日後に月面に到達する予定。飛行中の放射線量も計測し、将来の有人探査計画に生かす。
SLSには米国、日本、イタリアの超小型衛星計10機が相乗りし、オモテナシは唯一月着陸を行う。日本からは、JAXAと東京大が開発した「エクレウス」も搭載され、月の裏側にある地球と月の重力が釣り合うポイント「ラグランジュ点」へ向かう計画。
常識破りの挑戦
小包サイズの探査機でも月にたどり着けるのか-。オモテナシ開発は常識破りの挑戦でもあった。「世界最小」の機体に、月を目指し続けてきた研究者らの夢と技術が詰め込まれている。
「ここまで小さな着陸機は誰も作ったことがない。かなりチャレンジングな計画だった」。JAXA宇宙科学研究所のオモテナシ開発のプロジェクトチーム長、橋本樹明教授(59)はそう振り返る。
NASAからの〝招待状〟が届いたのは2015年8月下旬。10月までにSLSに相乗りする超小型衛星の案を募るとの内容に、すぐさま手を挙げた。
橋本さんは過去10年以上、「セレーネ2」など大型の月面着陸探査プロジェクトに携わってきた熟練の研究者だ。だが、予算の関係からプロジェクトは中止に。月への扉を閉ざされる苦い経験を味わってきた。
今回の開発に当初与えられた期間は約1年半。通常の探査機開発では考えられない短さだ。それでも、「目の前にすぐに実現できるチャンスがあるのに、提案しないわけにはいかなかった」。2週間ほどで同僚らとコンセプト案をまとめて提出。翌年4月にNASAに採用された。橋本さんに、JAXAにその年入ったばかりの新人研究者4人が加わった開発チームが立ち上がった。
困難が続いた道のり
だが、計画の実現性は乏しかった。重力のある月への探査機の着陸は、減速による制御を掛けなければならず、十分でなければ、そのまま地表に激突してしまう。このため、過去に開発されてきた月着陸機は大型のエンジンやセンサーを搭載しており、重量は100キロを超えた。一方、NASAが相乗りの条件として指定したサイズは小包ほどしかない。
部品が収まらなかったり、ねじを締める手が入らなかったりなど、厳しい制約の中、次々に新たな問題が浮上した。エアバックは膨らませるための配管が入らず、地球に電波を送るアンテナに機能を変更した。
着陸時の減速をめぐっても、高性能な制御装置はサイズオーバーのため、制御性に乏しいものの、推進力は出せる超小型の固体ロケットを開発することに。着陸も、機体全体ではなくアンテナなど最小限で目指すこととなった。
それでも、着陸時のスピードは時速180キロに達し、地球での重力によって生じる加速度の約1万倍もの衝撃が加わる。機体を守るため、今年度打ち上げ予定のJAXAの月着陸機「スリム」のほか、月探査計画「ルナA」(中止)で開発された衝撃吸収技術や樹脂固定技術などを応用した。他のプロジェクトチームのもとに若手メンバーが何度も足を運んで技術を習得し、実装させていった。
オモテナシの名前の由来
ユニークな名前は打ち上げの当初予定が東京五輪の開催前だったことにちなんだ。また、日本の月探査時代の第1号として着陸し、月を訪れる人々や探査機をもてなしたいとの思いも込められているという。
橋本さんは、他のプロジェクトチームからの技術応用を踏まえ、「開発で得た知見で、別のプロジェクトに貢献していきたいと思っていたが、実際には『おもてなし』を受ける側になってしまった」と笑う。
開発費用は7~8億円と大幅な低コスト化を実現させた。月面物資の輸送手段など民間や大学・研究機関への開発の広がりも期待される。
オモテナシは月面着陸後、無事地球に電波を送信できればミッション成功だ。撮影カメラも搭載し、余力があれば月や地球の撮影にもチャレンジするという。事前の計算による着陸成功率は約30%。「成功できれば一番いいが、何よりも、ここまでの過程で得た技術を今後につないでいきたい」と橋本さん。
日本の月探査を切り開く、「世界最小」探査機の挑戦が始まった。
筆者:有年由貴子(産経新聞)
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2022年8月28日付産経新聞記事の情報を更新して転載しています
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