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新発想で月面着陸へ 民間世界初、打ち上げ迫る 日本のベンチャー

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アイスペースの月面着陸船の想像図(同社提供)

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民間企業による世界初の月面着陸を目指す宇宙ベンチャー、アイスペース(東京)の月着陸船が打ち上げられる。これまで国の機関が牽引(けんいん)してきた宇宙開発の手法とはガラリと趣を変え、急拡大が見込まれる宇宙ビジネス市場を見据え、民間らしく徹底的にコストを削減。月への飛行期間も飛行経路も、これまでの月探査とは全く異なるものになるという。

 

 

約5カ月の宇宙飛行へ

 

アイスペースの月着陸船は12月11日午後4時38分、米フロリダ州ケープカナベラル宇宙軍基地から米スペースX社のロケットで打ち上げられる予定だ。約5カ月の飛行で、来年4月末頃の月面着陸を計画している。

 

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国の機関である宇宙航空研究開発機構(JAXA)が11月16日、日本初の月面着陸を目指し打ち上げた超小型探査機オモテナシは、通信のトラブルで着陸を断念。そのためアイスペースが着陸に成功すれば、民間での世界初だけでなく、日本初も含めて2冠を達成する可能性がある。

 

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民間による月面探査を目指す宇宙ベンチャー、ispace(アイスペース)は、同社が進める民間月面探査プログラム「HAKUTO―R(ハクトアール)」を支援する企業として日本航空、三井住友海上火災保険、日本特殊陶業の3社とパートナー契約を締結したと発表した。アイスペースの袴田武史最高経営責任者(CEO、左)と支援企業幹部ら=2019年2月22日、東京都港区 (三尾郁恵撮影)

 

現在は50兆円程度といわれる宇宙ビジネスの市場規模は、今後約20年で150兆円近くに急拡大するとみられている。そのためアイスペースは、特に需要増が見込まれる月への物資輸送サービスの確立に向けた技術などについて、今回のプロジェクトで検証する。

 

 

地球を離れ150万キロ

 

これまで国を挙げてのプロジェクトとして進められてきた各国の月探査と異なるのは、月への飛行期間と飛行経路だ。地球から月までの距離は約38万キロで、1969年7月に世界初の有人月面着陸に成功した米宇宙船アポロ11号は、打ち上げから4日半で月に着陸した。オモテナシも、5日半で着陸する計画だった。

 

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一方、アイスペースの場合、着陸は打ち上げから約5カ月後となる。これまでのように、最短距離の飛行経路を目指してはいないからだ。着陸船は打ち上げ後、月が地球を周回する軌道を飛び越え、いったん地球から約150万キロまで離れる。その後、地球や月、太陽の重力をうまく利用しながら進路を制御し、まるで大回りするような経路で月周回軌道に戻り、来年4月末の月面着陸を目指す。

 

 

燃料を半分以下に節約

 

このような飛行経路を選んだ理由について、同社の技術部門を統括する氏家亮CTO(最高技術責任者)は、「燃料を節約することが最大の目的だ」と説明する。

 

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アイスペースの技術部門を統括する氏家亮CTO(伊藤壽一郎撮影)

 

宇宙を飛行する際に使用する燃料は、非常に高価だ。大量に搭載すれば飛行可能な距離が伸びるが、船体に占める体積が大きくなり、物資などを積める量が少なくなる。宇宙への物資輸送ビジネスを前提とした民間事業の場合、少しでも燃料を減らすことは低コスト化につながり、顧客獲得への競争力に直結する。

 

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また、有人宇宙船の場合、飛行士の宇宙線被曝(ひばく)などを減らすため、燃料を大量に使って少しでも早く目的地に到着する必要があるが、物資輸送の場合はその必要がない。

 

今回の飛行経路は、大回りで時間はかかるが、地球や月、太陽の重力を利用しながら、最低限の燃料で飛行方向の修正などを行える。そのため、従来の経路を飛ぶ場合に比べ、必要な燃料を半分以下に減らすことができるのだという。

 

宇宙ベンチャーispace(アイスペース)が開設した月着陸船(ランダ―)の管制室=2020年11月、東京都中央区(同社提供)

 

「荷物」を7個も搭載

 

燃料節約の結果、月着陸船は脚を広げた状態で幅2・6メートル、高さ2・3メートル、重さ340キロ(燃料含まず)のコンパクトさながら、物資を搭載するスペースも十分に確保。今回は、JAXAの小型ロボットやアラブ首長国連邦(UAE)ドバイの政府宇宙機関の探査機など、計7個もの「荷物」を月まで輸送する。

 

国の機関による宇宙開発との違いはまだある。公的事業の場合、ロケットや探査機の部品は、全てそのプロジェクトのために新たに設計・開発されたものを使うが、アイスペースの月着陸船は、既成の電子部品など、汎用(はんよう)品を多用。これも運用コスト削減に大きく貢献しているのだという。

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市場の急拡大が見込まれる宇宙ビジネスは、世界各国の企業の参入が相次ぎ、競争が激化している。氏家CTOは、「意思決定の迅速さなど、民間企業の持ち味を生かして月面着陸をまず成功させ、将来は月面の資源化や持続的な宇宙開発事業の確立につなげていきたい」と語った。

 

筆者:伊藤壽一郎(産経新聞)

 

 

2022年11月27日付産経新聞【びっくりサイエンス】を情報を更新して転載しています

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