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国産初の手術支援ロボットの挑戦 最先端技術が助ける医療現場

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メディカロイド社(川崎重工とシスメックスの共同出資)が開発した国産初の外科手術支援ロボット「hinotori」のシステム(同社提供)

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国産手術ロボットの登場

 

自動化が進む外科手術の分野で国産初の手術支援ロボットが登場し、海外勢がほぼ独占してきた市場に切り込んだ。川崎重工業とシスメックスの共同出資会社、メディカロイド社が開発した手術支援ロボット「hinotori」である。「hinotori」は、国産初の産業用ロボットを開発した業界のパイオニア、川崎重工業と医療用検査・診断技術を持つシスメックス両社の技術力が注がれて2015年から開発が始まり、2020年8月に日本国内での製造・販売が承認された。手術の執刀医に代わる4本のロボットのアームを備え、執刀医は離れた場所で3Dの精緻な立体映像を確認しながらロボットアームを操作して手術を進める。

 

「hinotori」は2023年1月、政府の第9回「ものづくり日本大賞」の内閣総理大臣賞を受賞した。

 

 

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米・サージカル社製の内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使った手術の様子(日製日立総合病院提供)

 

ロボットの手術が適用できる診療科も、泌尿器科、消化器外科、婦人科へと順次拡大している。国内での導入例は大学病院など28施設に及び(2022年6月末時点)、「hinotori」を使った手術例は840(2022年12月15日時点)になる。外科手術支援ロボットはこれまで、1999年に販売が始まった米国インテュイティブ・サージカル社製の「ダヴィンチ・サージカルシステム(以下、ダヴィンチ)」がほぼ市場を独占してきたが、その主要特許が2019年から切れ始めたため、多くの企業が市場参入を狙ってきた。後発の「hinotori」は小型化と価格を抑え(2億円程度から)、販売開始から2年で国内シェア2割を超える(2022年6月末時点、メディカロイド推計)勢いで追撃する。

 

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手術支援ロボット「ダヴィンチ」。医師はモニター(右)を見ながら、アーム(中央)を操作して手術を行う=2012年10月13日、和歌山県立医科大学(©産経新聞)

 

手術ロボットが増えている背景

 

外科手術は従来の「開腹手術」から、腹部を切り開かずに最小限の穴を開けて器具を挿入して行う「腹腔鏡下手術」の普及が進んだ。「腹腔鏡下手術」は傷口が小さく、出血量も少なく手術後の回復が早いなど、患者への負担が少ないメリットがある。一方で、手術器具への一定の経験・技術が要求される。手術支援ロボットは、より自動化が進み「腹腔鏡下手術」の限界を補う発展型のシステムになり、毎年約13%の成長率で導入が進んでいる。前立腺がん手術では、2013年にロボット支援手術の症例数が通常腹腔鏡下手術の数を抜いて逆転した(日本内視鏡外科学会調べ)。国内での手術支援ロボットを使った保険適用手術も増えていることも普及の追い風になっている。

 

「hinotori」は日本人の体格に合うように小型化が図られ、ロボットのアームは8つの関節を持ち、人間の手のようにスムーズな動きで細かな作業をこなせる。ここには、産業用ロボットの優れた技術を持つ川崎重工業のノウハウが注力されている。また、ロボットゆえに疲れを知らず、「手ぶれ」の心配もない。精緻な3D画像のモニターは「コックピット」と呼ばれる場所で執刀操作をする医師が「まるで体内で執刀しているかのような」リアルな状況で作業をする。長時間に及ぶ手術でも、従来製品よりも医師の負担が軽減されるように改善されている点などが評価されている。

 

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「hinotori」の「コックピット」部分(画像提供:メディカロイド)

 

これまで、米国製の「ダヴィンチ」で1000例以上の手術を行った大学病院の医師は「『ダヴィンチ』の装置は大型で、小柄の日本人の患者を手術する際にロボットアーム同士が接触してしまう問題も稀にあったが、『hinotori』はその問題が改善されている。手術を執刀する立場からすると非常に大きな改善点だ。」と評価する。中断が絶対許されない外科手術現場での製品に対する要求は極めて厳しい。高度な手術支援ロボット「hinotori」の操作には事前の十分な訓練が必要だが、すでに「ダヴィンチ」を使用してきた医師ならば共通点も多く取り組みやすく、トレーニング時間が短縮できるとされる。

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「hinotori」のロボットアームの8つの関節。(画像提供:メディカロイド)

 

国産手術ロボットの今後の進化

 

日本は産業用ロボットの世界有数の生産国であるが、医療用ロボットでは輸入に頼り、国産化では遅れをとってきた。国産の手術支援ロボットでは、オリンパスや東京工業大学発のベンチャー企業も2010年代から開発を進めたが、メディカロイドが最初に実用化に至った。業界後発の同社は何よりも現場の外科医師の要望をよく聞き、機能とシステムの改善・信頼性を製品にきめ細かく反映させた点が評価されて「hinotori」の導入数増加に寄与しているようだ。

 

アームの先に取り付ける器具の改善・拡充はもとより、手術のデータベースの蓄積や、データを活用した執刀医師の手術技術のAI解析など、高度な手術ロボットから得られる豊富なデジタルデータの有効活用も考えられ、総合的な高度医療の進化、病院経営の支援にも応える拡張性を訴えている。手術ロボットの分野には多くの関連メーカーの参入で国産市場のさらなる発展への期待も持たれる。

 

さらに、高速の専用通信回線を使った「遠隔手術システム」の実証試験にも取り組む。これは、都市部の大規模医療機関と地方の医療機関をつなぎ、数100km離れた遠隔から医師がロボットを操作、指導、支援するための実験で、外科医が不足する地方でも、離れた拠点間を同一手術室のように扱えることを目的とする。

 

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国産初の手術支援ロボット「hinotori」(画像提供:メディカロイド)

 

海外への展開

 

「hinotori」は今後、高度医療サービスが普及している米国、欧州での販売承認を目指して準備中だ。アジア・パシフィック地域ではこの程シンガポールに拠点を設置し、同地域での販売に備える。経済成長と医療インフラの成長が著しいアジア・パシフィック地域での普及も有望視される。

 

メディカロイドは、2031年3月末までの手術支援ロボット事業の売上目標を1000億円としている。

 

 

戦争と医療技術

 

医療技術の進歩と戦争とは関係が深い。19世紀の米国の南北戦争で生まれた絆創膏(サージカルテープ)をはじめ、止血剤、輸血・搬送システム、レントゲン写真、義手・義足、補聴器、看護・リハビリ技術など、軍事医学から民間医療に転用されたものは数多い。

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手術支援ロボット「ダヴィンチ」も、軍事医療の目的から米国の大学と米国陸軍が共同開発した医療装置がルーツになる。

 

皮肉なことに、戦争で負傷する兵士の緊急治療や生化学兵器の防御のために開発される技術革新が現代も民間医療技術の進歩に反映されている。

 

筆者:海藤秀光(JAPAN Forwardマネージャー)

 

(参考)
メディカロイド:https://www.medicaroid.com/en/

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