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量子コンピューター国産初号機誕生へ 日本勢巻き返し

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従来のスーパーコンピューターをはるかに超える大規模高速計算が可能になるとされる量子コンピューター。世界中で熾烈(しれつ)な開発競争が繰り広げられている。日本では、初めての国産機の完成が年度内に予定されるほか、国内研究者が生み出した技術が本格的な量子コンピューターを実現する有力候補に躍り出るなど、日本勢の巻き返しが目立つ。量子コンピューター研究開発の現在地に迫った。

 

 

実験機を公開、研究促進

 

埼玉県和光市の理化学研究所量子コンピュータ研究センター(RQC)。ここで国産量子コンピューター初号機の研究開発が進んでいる。2023年3月末の完成を目指し、開発を率いるのがRQCセンター長を務める中村泰信氏だ。

 

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取り組むのは、量子コンピューターの実現方法としては主流派と目される超電導方式で、米グーグルや米IBMなど海外の大企業も採用する。中村氏はNECに在籍していた1999年、世界に先駆けて心臓部となる超電導量子ビットを作り出し、世界を驚かせた。

 

従来のコンピューターのビットが「1」か「0」のどちらかの情報しか持てないのに対し、量子コンピューターで使う量子ビットは0でも1でもある重ね合わせの情報を持つことができる。このため情報処理を一気にでき、超高速計算を可能にする。

 

超電導方式は、極低温にして超電導状態にした電子回路を用いる。極低温の環境を作るために装置が大きくなったり、配線が難しくなったりといった課題もある。

 

初号機は政府が2022年4月に策定した量子未来社会ビジョンで、年度内の整備が掲げられた。同ビジョンは、量子コンピューターを「最先端の科学技術のデパート」としている。国産の実機を早期に開発することは、科学技術をめぐる覇権争いで世界に伍(ご)していくために必須ということだ。

 

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初号機は、実機に触れながら関連技術の研究開発を進めるためのテストベッド(試験環境)となる。中村氏は「みんなが使える国産機をなるべく早く用意することを要請されている。共同研究者の利用から始まると思うが、拡大していきたい」と話した。

 

量子コンピューターのハードウエアを効率的に動作させたり、量子計算の強みを発揮するソフトウエアを作ったりなど、「さまざまなレベルの研究ができる」(中村氏)。

 

 

 

多様性のある研究環境

 

RQCでは超電導のほか、光量子やシリコンなどを使った方式で量子コンピューターの実現を目指す研究が進んでいる。これだけ多様性のある研究を進める研究者がそろう研究機関は海外にもあまりないという。方式が異なっても量子状態の制御など技術的な課題には共通点が多い。中村氏は、「お互いに学ぶことも多く、相乗効果を狙える」と指摘した。

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重ね合わせ状態を持続させ、演算ができる量子ビットの寿命を延ばせるかが量子コンピューター開発の大きな課題だ。また、ビット数を増やして大規模化するにはチップ化が必要とされる。

 

しかし、古沢明副センター長が研究する光量子コンピューターは、次から次に流れる光の量子ビットを用いることで、原理的に寿命がなく、チップ化も不要だという。

 

従来の量子ビットが抱える課題を解決するもので、「パラダイム・シフト(時代の転換点)だ」と古沢氏は、自らの方式に自信を示した。

 

光量子方式は、2022年のノーベル物理学賞の受賞テーマでもある「量子もつれ」や「量子テレポーテーション」といった現象を使う。量子もつれという特殊な相関関係にある量子同士は、どれだけ離れた場所にいても同じ振る舞いをする。この性質を利用して離れた場所に一瞬で情報を転送するのが「量子テレポーテーション」だ。古沢氏は、この現象を完全な形で実証することに世界で初めて成功した。

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常温の環境で動作し、光を使うため現行の光通信とも親和性が高い。

 

 

 

日本のお家芸で

 

かつての日本のお家芸で巻き返しが期待できるのが、シリコン方式だ。量子ビットを半導体技術で作成するもので、RQCと理研・創発物性科学研究センターの両方で研究を率いる樽茶(たるちゃ)清悟氏が主導する。

 

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電子を半導体の薄膜と電気の力で閉じ込める。電子の自転(スピン)は磁石のような性質を持ち、磁石の向きによって「0」「1」を表現する。

 

演算をするための制御技術の確立で他方式に比べて遅れがあり、まだ数ビットの制御にとどまる。しかし、樽茶氏らのグループが最近、基本的な計算操作や計算のエラーを訂正する操作に成功した。

 

基礎的な技術が固まれば、既存の半導体集積技術を応用して、一気に実用化が進む可能性もある。それだけに、企業との協力が肝要だと樽茶氏は指摘する。2030年頃までに量子ビットを100~1000程度まで増やすことを目指しており、現実的に大規模化できることを示して「企業の参入を促したい」と話した。

 

量子コンピューターの実現方式は、本命といえる技術が見えていないのが現状だ。RQCで研究されている方式以外でも、日本勢は基礎研究で存在感を示しており、人材に多様性があるのが日本の強みだ。量子立国の実現に向け、日の丸量子コンピューターの躍進に期待が高まっている。

 

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筆者:松田麻希(産経新聞)

 

 

2022年12月4日付産経新聞【クローズアップ科学】を転載しています

 

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