「倒しようがないから余計に怖い」是枝監督、カンヌ脚本賞「怪物」を語る
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是枝裕和監督(60)の最新作「怪物」が世界的に注目を浴びている。本作の脚本を手掛けた坂元裕二(56)がカンヌ国際映画祭コンペティション部門で脚本賞を受賞したからだ。是枝は基本的に脚本も自ら手掛けており、他の脚本家と組むのはデビュー作「幻の光」(平成7年)以来となる。音楽は今年3月に亡くなった音楽家、坂本龍一が担当し、奇跡のコラボレーション作品となった。是枝が作品への思いを語った。
本作はもともと東宝のプロデューサー、川村元気と山田兼司が坂元と企画したもので、長いプロットができた段階で、監督として是枝の名前が挙がったという。そのプロットを読み、「大変面白く、ぜひ参加したい」と快諾した。
夫を事故で亡くしてから小学5年生の息子と2人で暮らすシングルマザーを安藤サクラ(37)、小学校の担任教師を永山瑛太(40)、校長を田中裕子(68)が演じている。思い通りのキャスティングが実現し、「身震いした」。
主要な役が決まってから、俳優に合わせた当て書きの形で脚本が完成していったという。「キャスティングが決まってから、フォーカスが人物にビシッと合う感じになった」
主要な登場人物となる2人の少年はオーディションの結果、全員一致で黒川想矢(そうや)(13)と柊木(ひいらぎ)陽太(ひなた)(11)に決まったという。2人とも「一番しっかりと役をつかんで表現していた」。
11歳の少年が担任教師から受けたとされる体罰を巡る物語が、異なる3つの視点から繰り返し描かれる。「最初にプロットを読んだとき、『羅生門』構造だなと思った」と是枝監督。
黒澤明監督の「羅生門」は、平安時代の武士の殺害事件で武士の妻、下手人として捕まった盗賊、殺された武士の霊がそれぞれ食い違った証言をする姿を描く。同作では最後に事件の目撃者が「3人は嘘をついている」として事の真相を語るが、本作には「どこかに事実があるわけではない」。
登場人物たちは、視点によってはモンスターペアレント、事なかれ主義の教師たち、正体の知れない子供たちに見える。
人間関係が希薄になっている現代社会をよく映し出した作品だ。「コロナ禍を経て、より〝いま〟の話だなと僕は感じながら撮っていた」。自分が理解できない人たちが人ではなく、怪物に見えてくるという。
「怪物なんて実際どこにもいないけれど、そこに怪物を見てしまう。実際に怪物がいて、それを倒す話だと分かりやすいけれど、そうでないから面白いというのがある。これは倒しようがないので、余計に怖いんだと思う」
筆者:水沼啓子(産経新聞)
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6月2日から全国公開。2時間6分。
■是枝裕和(これえだ・ひろかず) 昭和37年生まれ、東京都出身。62年、早稲田大卒業後、番組制作会社「テレビマンユニオン」に入社。平成7年に「幻の光」で映画監督デビュー。16年、「誰も知らない」主演の柳楽優弥がカンヌ国際映画祭最優秀男優賞。25年、「そして父になる」が同映画祭審査員賞。30年、「万引き家族」で同映画祭最高賞「パルム・ドール」を受賞した。
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