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【主張】クマ被害の深刻化 「アーバンベア」が増えた 市街地進出防いで事故減らせ

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札幌市で目撃されたクマ=5月(北海道警提供)

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秋の訪れとともに各地でクマの出現が続き、負傷者増に加え、命を奪われる犠牲者も出ている。今年のクマによる事故は目立って多い。環境省によると4~9月のクマによる人身被害は15道府県で109人に上る。かつてないペースである。

 

クマは冬眠前の11月末まで活発に動くので生息していない九州や、絶滅に近い四国を除く大部分の都道府県では、十分な注意が必要だ。彼らを人間の生活圏に近づけないこと、不意の出合いが多い朝夕の散歩を控えることなどを心がけたい。

 

クマに襲われた可能性がある女性が倒れていた現場付近の住宅街=11月1日午前、福島県会津若松市(共同)

 

クマの捕殺増も問題だ

 

秋のクマの出没予測は、春頃から山中のブナやミズナラなどドングリをつける樹木の開花状況を基に行われる。ドングリが不作だと人里の柿や栗などを求めて、山奥から多くの個体が下りてくる。冬眠に必要な栄養をとるための行動だ。

 

今年もドングリの不作年だ。しかし、今年を含め近年見られる規模の大量出没が繰り返されるようになった理由は別にある。農山村の衰退だ。働き手の都市への流出で人口は激減した。農地や林地は放置され、クマの暮らす奧山と人里の間にあった緩衝ゾーンが、奧山の領域に化した。クマは茂る草むらや間伐されずに密生する樹木に身を隠して集落に接近できるようになったのだ。

 

サルやイノシシやシカも増えて限界集落に向けての圧力を増している。しかし、駆除に当たる地元のハンターの側は減少と高齢化が進む。クマの出現増加の背景には、こうしたもろもろの変化が作用していることを見過ごしてはならない。

 

住宅裏の畑に残された、クマのものとみられる足跡=10月31日午後、富山市(共同)

 

それにしても今年をはじめ、近年のクマによる人身被害の多さは深刻だ。令和元(2019)年度と翌2年度には、続けて150人を上回った。今年度はさらに多い負傷者数となることが危惧される状況だ。

 

昭和55(1980)年度から3年間は毎年10人以下だった。急増傾向に転じたのは平成11(1999)年度からだ。その後は1年ないし3年置きに負傷者数100人以上の年が繰り返されている。少ない年度でも50人を下らない。

 

その一方で捕殺(ほさつ)(わなで捕獲した個体の殺処分)されているツキノワグマもおびただしい数に上る。令和元年度には約5300頭、同2年度には約6100頭という数字である(北海道のヒグマの捕殺は760頭と860頭)。今年度は8月末で約2600頭になっている。

 

この局面での問題は、政府によるツキノワグマの総生息数の把握が遅れていることだ。環境省の約10年前の調査では1万5千頭前後と推定されているが、実態との乖離(かいり)はないのか。

 

盛岡市動物公園ZOOMOで開かれた、高校生対象のクマに関する勉強会=11月2日午前(共同)

 

正確な再調査を急がなければ過剰捕殺に陥り、地域個体群の崩壊を招きかねない。

 

クマは日本の森林生態系の最上位に位置する雑食の大型獣だ。行動範囲が広く食べた植物の種子を播(ま)いて歩くなど、さまざまな役割を果たしている。

 

日本の国土面積の7割は森林だ。クマの絶滅を招くと二酸化炭素の吸収源であり、水源でもある森林の多様な機能への負の影響を免れないだろう。

 

 

根本的な対策で共存を

 

クマと人間の共存を目指す研究者や鳥獣行政担当者の頭を悩ます問題がある。都市域に侵入する「アーバンベア」の増加傾向だ。山村の過疎化で人間に追われた経験のないまま成長したクマたちが市街地に迷い込む。異なる環境に興奮したクマが出合った人にけがをさせる。

 

10月19日に秋田県北秋田市の市街地のバス停で高校生ら男女5人を襲ったのもアーバンベアだ。クマとしての常識を欠いているという意味で「新世代グマ」とも呼ばれる。

 

近年の大量捕殺で相対的に食べものが増えたことによる団塊世代の若グマの可能性もあるだろう。

 

クマの人的被害多発を受け、環境省で開かれた関係省庁の連絡会議=10月31日午後(共同)

 

暑さが長引くとクマの冬眠開始も遅れる。クマが出没している地域での朝夕の散歩には注意が必要だ。事故は薄明薄暮時に多い。河川敷のほとりや藪(やぶ)の脇の道は避けたい。

 

令和元年度から農地、住宅地、市街地での人身被害が増加して2年度には従来最多だった山林での発生を上回った。

 

多くの人にとって疎遠な問題だったクマとの遭遇が、今や身近なリスクになりつつある。東京都にさえツキノワグマは出ている。クマの行動圏と人間の生活圏は接近中だ。その現実を忘れてはならない。

 

 

2023年10月25日付産経新聞【主張】を転載しています

 

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