柔道・井上康生氏「杭州アジア大会を振り返って」
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ジャパンフォワード読者のみなさん、こんにちは。
柔道家の井上康生です。今年も残すところあと1カ月あまりとなりました。私の住む日本では日に日に寒さが増しています。皆さんのお住まいの地域はいかがでしょうか。
さて今月は時間を少し遡り、9月19日から10月8日まで中国・杭州で行われたアジア競技大会についてご報告したいと思います。
アジア競技大会はアジア評議会が4年に一度開催する総合スポーツ大会で、「アジア版オリンピック」とも言われています。今大会はコロナ禍により1年延期しての開催となり、45カ国・地域が参加し、40競技481種目が行われました。今回、私は日本選手団副団長のひとりとして参加し、連日、日本チームの応援のため、各競技会場を巡回しました。どの会場もすばらしい試合とプレーの連続でスポーツのすばらしさを再確認しただけでなく、最新のデジタル技術を駆使した会場演出や効率的なオペレーションに接し、大会運営面についても大いに学ぶ機会となりました。
こうした中、大会全体を通して強く感じたのが、スポーツの定義の拡大です。
アジア競技大会はもともとカバディやセパタクローなどのアジア発祥の競技や、囲碁やチェスといったいわゆる“マインドスポーツ”など、オリンピックでは行われていない競技が実施され、その多様性が魅力の一つとなってきましたが、今大会、初めてeスポーツが実施されました。近年、愛好家人口が爆発的に増えているeスポーツが、いよいよ競技スポーツの一員としてアジア競技大会に加わったのです。eスポーツ同様、近年、非常に人気を集めているBMXやクライミング、スケートボードなどの“アーバンスポーツ”は、すでにオリンピック競技として定着した印象です。このように競技スポーツの種類は増えつづけ、その定義は拡大しつづけています。
一方で変わらないと感じたこともあります。それはスポーツが映し出す人間の美しさです。選手たちの懸命なパフォーマンスはもちろん、試合後、勝敗を超えて互いを讃え合う姿などに、いつの時代も変わらぬ人間の美しさが表れていると思ったのです。総合スポーツ大会はこうした人間の持つ良き面を、さまざまな競技を通して我々に見せてくれます。考えてみれば、このように国や言語、文化や宗教を超え、人々の心を動かすイベントは他に見当たらないように思います。だからこそスポーツは必要だと思いますし、その価値と魅力をもっと高めていく努力をしていきたいと思うのです。
国際柔道コーチングセミナーを4年ぶりに開催
世界6カ国から7名が参加 友情を平和を築く約1カ月間
アジア競技大会閉幕から2日後、世界から柔道指導者が日本の地を踏みました。私が理事長を務めている認定NPO法人JUDOs主催による柔道国際コーチングセミナーに参加する人たちです。コロナ禍を経て4年ぶりの開催となった今回は、6カ国から7名が参加し、10月10日~11月6日までの約1カ月にわたって行われました。セミナーの目的は、柔道の指導技術を学ぶだけでなく、柔道発祥の地である日本の歴史や文化に触れていただきながら、国や人種、言語、宗教などの違いを超え、柔道による友情を育む機会とすることです。
今回参加された方々は、オリンピック出場経験があったり、ウクライナからドイツに避難中であったりと、それぞれ異なるバックグラウンドを持っていました。そうした方々が、一定期間寝食を共にし、柔道指導に関するあらゆることを学びます。タイトなスケジュールではありましたが、それぞれがひとつ一つのプログラムに真摯に取り組み、その姿は胸を打つものがありました。開催にあたっては限られた資金であってもなんとか充実した内容にしたい、参加者に喜んでほしいと、スタッフが知恵をしぼり、工夫をこらしてプログラムを組み立てました。本セミナーの趣旨に賛同し、お力添えいただいた皆さん、ありがとうございました。
筆者:井上康生
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