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ニューカレドニア暴動の背景 島サミットの優先課題

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5月15日、ニューカレドニア・ヌメアで暴徒によって封鎖された道路(Lilou Garrido Navarro Kherachi提供・ロイター)

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5月13日、観光地として有名なフランス領ニューカレドニアで発生した暴動は世界を驚かせた。ニューカレドニアの政治を少しでもフォローしている人であれば、今年の2月頃から独立派が大規模なデモを行っていることは知っている。独立派が強硬に撤回を求めたのが投票権の拡大を許す新たな法律である。ニューカレドニアの政治的地位を住民投票で決めるにあたって1998年に合意されたヌメア協定では投票権が制限されていたのである。同時に先住民の雇用を保障していたニューカレドニア最大の産業であるニッケル工場経営が危機に陥り不安が重なった。

 

5月15日、ニューカレドニア南部で発生した火災(Olivia Iloa提供・ロイター)

 

青年問題

 

商店や公共機関を放火、略奪し大規模な混乱に至らしめたのは15−25歳の青年だという。暴動によって先住民青年と警官6人が犠牲となった。医療にアクセスできなかった市民の命も奪っている。現地警察は背後で青年たちに指揮をとるグループの存在を指摘している。

 

太平洋島嶼国の最大の問題とでも言って良いのが人口増加で、青年層は50%以上。ミクロネシア、ポリネシアは米国とニュージーランドに移民できる制度が確立しているが、メラネシア独立国は皆無である。ニューカレドニアの青年層失業率2020年には46%だった。メラネシア地域は太平洋島嶼国の人口の95%を占め、人口成長率は高い。ソロモン諸島での暴動も平和なデモが暴力に発展した背後には街で屯する非行青年の存在が指摘されている。メラネシア諸国の青年の教育・雇用問題は最重要課題である。

 

5月15日、ニューカレドニアのヌーメアで、暴動が起きた通りを警戒する警官ら。画像はSNSに投稿された(ロイター)

 

島サミット・自由で開かれたインド太平洋・日仏海洋協力

 

7月に第10回太平洋・島サミット(PALM10)を開催する日本がこの問題を無視することは許されない。日本は何ができるであろうか。

 

安倍総理が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」が島サミットに登場したのは2018年であった。これは筆者が前年2つの日本議員連盟勉強会に呼ばれ講演をした結果でもある。そしてこの年から島サミット共催組織である太平洋諸島フォーラムの正式メンバーとなったニューカレドニアと仏領ポリネシアも参加した。両地域の問題は日本の「自由で開かれたインド太平洋」の対象となった。現在米領のグアム、米領サモアも太平洋諸島フォーラムメンバーになることが検討されている。

 

これは何を意味するのか。米国、フランス政府の押し付けではない。政治的地位を超えた島嶼の共通問題に対処しようとする島嶼国の意思の表れであり、日本の役割が期待されているということだ。

 

 

日仏海洋協力と福島処理水

 

2019年安倍総理が日仏海洋協力をマクロン大統領と合意し5年が経過。2024年5月初旬、岸田総理がマクロン大統領をパリに訪ね自衛隊とフランス軍の相互往来と共同訓練を可能にする「円滑化協定(RAA)」締結に向けた正式協議開始を合意した。

 

なぜ海洋協力なのか。フランスはインド太平洋に領土を持ち、その島々が世界最大の排他的経済水域を形成している。

 

なぜ軍事協力なのか。インド太平洋に展開する米軍がハワイ、日本、グアムに足場を持つのに比べ、仏軍の最大の基地はニューカレドニアにしかない。日本自衛隊のインド太平洋派遣でもニューカレドニアは毎回訪れており、2023年には日本領事館も開設された。

 

ニューカレドニア・ヌメアで治安当局者と話すフランスのマクロン大統領(右)=5月23日(ロイター)

 

日仏海洋協力はそもそも海洋環境、違法操業取締など広義の安全保障が対象である。特に今回の島サミットで重要議題になるであろう福島処理水をめぐる太平洋島嶼国からの批判に応えるためにも米仏政府をオブザーバーとして招き、海洋監視を含む両国の太平洋島嶼領土支援を協議する必要もある。

 

 

青年問題を島サミットの議案に

 

先に述べた青年問題を今回の島サミットの中心議題に挙げることに島嶼国政府の反対の声は想像できない。日本は中国、韓国、ASEAN諸国を中心に内閣府が主導する青年交流事業65年の実績がある。この事業は皇室外交の一翼も担い、日本全国の青年と地方政府国際化にも貢献している。今まで仏領の太平洋の島々は対象ではなかった。

 

記者会見するフランスのマクロン大統領=5月23日、フランス領ニューカレドニア・ヌメア(ロイター)

 

パリとニューカレドニアの中間点、日本の京都で和解会議を

 

今回の暴動の対応として、マクロン大統領がパリでの緊急会議を呼びかけたが、混乱したニューカレドニアを離れて地球の裏側まで行こうとする地元リーダーはいなかったようだ。結果、マクロン大統領が急遽ニューカレドニアを訪れ、利害関係者との会合をもつ形となった。25時間の飛行機の移動で疲れた頭で深刻な政治問題を語るよりも、中間点の日本、特に伝統、文化、自然に恵まれた京都での和平会議を提案したい。勿論日本は中立を保ち、仏露対立を反映したアゼルバイジャン政府の干渉のような事は避けなければならない。

 

 

ニューカレドニアの農水産業を育てた日本

 

最後に日本とニューカレドニアの歴史を抑えておきたい。戦前、延べ5000人の日本人が契約労働者としてニューカレドニアに渡った。契約が切れた後も同地の鉱業、農業、水産業、塩田など開拓し、日本人なくしてニューカレドニアの経済は成り立たない時期があったのである。現在ニッケル産業の低迷で現地雇用を直撃しており、その反省として農水産など産業の多角化が求められている。ここにも日本の貢献の可能性がありそうだ。

ジャン・ローレダー博士から貴重な助言をいただいた。

 

筆者:早川理恵子博士

太平洋安全保障、ICT4Development、海洋法を専門とする日本人実務家。首相官邸で日・ASEAN青年事業にも携わる。日本・豪州・NZの海外開発援助プロジェクトとしてUSPNetのアップグレードを立ち上げたほか、西太平洋の海洋安全保障プロジェクトなど多くのプロジェクトを推進。2017年、安倍晋三首相に海洋安全保障と太平洋諸島を含むインド太平洋戦略を提言。教育学、国際関係論の修士号、ICT4Dの博士号(オタゴ大学、ニュージーランド)を取得。現在、同志社大学で国際海洋法の博士課程に在籍、 インド太平洋研究グループ幹事。

 

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